『サブスタンス』あらすじと感想(ネタバレあり) “一番良い自分”を追い求めた先に現れる本当のモンスター

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公開日(日本):2025年5月16日

監督:コラリー・ファルジャ
脚本:コラリー・ファルジャ

キャスト
エリザベス:デミ・ムーア
スー:マーガレット・クアリー
ハーヴェイ:デニス・クエイド

 

※本記事には映画『サブスタンス』のネタバレを含みます。未鑑賞の方はご注意ください。


こういう作品に出会うために、映画を見続けているんだ!と思えるほど、テンションぶち上がった作品だった。クローネンバーグの『ザ・フライ』に強い影響を受けているのは明らかで、序盤のハエが液体に落ちるシーンにはリスペクトを感じた。

さらに、スタジオ外の廊下は『シャイニング』、薬の受け渡しロッカーは『2001年宇宙の旅』など、キューブリック作品の面影も散りばめられている。

忘れられたスター、エリザベス・スパークル

冒頭、記念碑が埋め込まれる場面でかつての栄光が語られる。エリザベス・スパークルは一時代を築いたスターだったが、年月とともにその記念碑同様に世間からも忘れ去られていく。

今では声だけ大きい無能なプロデューサーの元で、ハイレグ姿でエアロビ番組に出演中。だが、若い女性で番組を仕切り直したいプロデューサーによって番組を降板させられてしまう。

「もう働かなくて良いのでは?」と感じさせるほどの暮らしぶりにもかかわらず、エリザベスが求めていたのは金ではない。彼女の自己肯定感は“他人に好かれること”でしか満たされない。

再生医療「サブスタンス」と“最良の自分”

そんなときエリザベスが出会うのが、再生医療「サブスタンス」

これを注射すると、細胞分裂が起こり「最も良いバージョンの自分」が生まれる。

ただし、その分身は毎日エリザベスから抽出した“エキス”を注入しないと生きていけず、エリザベスもエキスを精製するため1週間ごとに“入れ替え”生活を送らなければならない。

こうして誕生した若く美しい分身「スー」は、エリザベスが降板したエアロビ番組に登場し、爆発的な人気を得る。

その人気は年末のスペシャル番組のMCに抜擢されるまでに。

やがてスーは時間が足りなくなり、活動時間を延ばす。その代償としてエリザベスは老化を急速に進められ、老婆になってしまう。

“理想の自分”と現実の自分がぶつかり合う

お互いの1週間の行動に納得がいかない両者は、お互いを憎んでいくようになる。

しかしエリザベスはスーの人気を見てプログラムを終了することができない。活躍しているのは自分ではないようで自分だから。

そして迎える年末の番組当日。エリザベスからはもうエキスが出ず、スーも身体を維持することが出来ず崩壊寸前。追い詰められたスーは、自らにサブスタンスを注射する。

その結果、生まれたのは異形の“怪物”。

皆一同に「モンスターだ!」と叫び、怪物に切りかかる。

撮影現場は血の海と化し、冒頭の丁寧な説明をひっくり返すカオスなラストに突入する。

「老い」と「美」の強烈なテーマ

監督のコラリー・ファルジャは「女性の体をテーマにした映画」だと語っている。スリムで若く、美しくセクシーであれば愛され、成功し、幸福になれる――そんな社会のルッキズムを暴き、ぶっ壊すのがこの作品だ。

劇中、スーがバスルーム裏にエリザベスを「隠す」シーンは象徴的だ。スーにとって老いた自分=エリザベスは「世間に見せられない存在」なのだ。

だが、老いは隠しても殺しても消えない。若かろうが老いていようが、今ある自分が“最高の自分”だと、この作品は強烈に訴えてくる。


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