『ゴンドラ』”愛おしさ”が詰め込まれた映像表現の最高峰※ネタバレあり

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(C)VEIT HELMER-FILMPRODUKTION,BERLIN AND NATURA FILM,TBILISI


公開日(日本)2024111

監督:ファイト・ヘルマー

『ゴンドラ』あらすじと感想

セリフなしという映画表現の最高峰

ファイト・ヘルマーと言えば、『世界でいちばんのイチゴミルクのつくり方』『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』といったセリフなし映画の独特な世界観が唯一無二の映画監督だ。

セリフなしというのはサイレント映画ではなく、音楽や環境音、「YES」や「うーむ……」といった簡単なセリフは登場する。

セリフをなしにする理由について監督は、もとの俳優の声が吹き替えによって差し替わることが好きではないし、字幕というのも読むストレスが加わり映像の楽しみが減ってしまうからと語っている。

確かにセリフやナレーションで物語が進むということは、小説でも可能なわけで、ファイト・ヘルマー監督の映画は映像表現としての純粋さを目指した結果ともいえる。

物語は父の死をきっかけに帰郷したイヴァが、村のゴンドラの搭乗員として働き始め、同僚のニノと恋に落ちていくというものだ。

セリフがないながらとても分かりやすい構成になっていて、イヴァが帰郷する前に父の家に住んでいた女性(母?)がなぜがイヴァのことを嫌っていて、その理由は明かされないものの、その謎もあってか映像への集中力は一段と深まっていく。

村を通る2台のゴンドラ

この村には2台のゴンドラが通っている。

ゴンドラと言えば山に登ったり観光のイメージが強いが、この村では通学や通勤に欠かせない乗り物になっている。

2台のゴンドラがちょうど真ん中ですれ違うたび、イヴァとニノはコミュニケーションを重ねる。

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このコミュニケーションのしかたが面白く、イヴァとニノはゴンドラを勝手に改造して列車風や蒸気船風に衣替えして相手を喜ばせようとする。

さらにニノに振られたことに腹を立てた駅長によってニノのヴァイオリンが壊されてしまうが、イヴァはニノに新しいヴァイオリンをプレゼントする。

この「相手をどうやって喜ばせるか」という描写がとても愛おしい。

ニノは実はキャビンアテンダントに憧れていて、それを知ったイヴァはニノが村からいなくなってしまうことに嫉妬するが、それすらも乗り越えて2人はお互いを尊重し合っていくのだ。

本作は実際にジョージアにある実在のゴンドラで撮影されているのだが、実はゴンドラは1台。

もう1台はVFXで作られたようだ。

2台のすれ違うゴンドラと瞬間の人間のコミュニケーションというものが本作の重要なテーマになっている。

想像力はどんな障害も乗り越える

イヴァとニノの想像力は無限大で、ゴンドラは次々と形を変えていく。

さらに2人はゴンドラに乗れない車いすのおじさんのために車いすをゴンドラからロープで吊るし、おじさんを運んであげる。

このおじさんの役はヴァチャガン・パポヴィアンというスタントマンでなんと実際にゴンドラからロープで車いすを吊るして撮影している……!

このおじさんは駅長から意地悪をされているのだが、ゴンドラに乗るという夢が叶いとても嬉しそうにする。

さらにニノは村人を巻き込んで音楽会を企画する。

ニノはゴンドラで村を通るたびに村の人たちに音楽を教えていく。

村の人たちはそれに応えてそれぞれの仕事道具で音楽を奏でていくのだ。

夜、村の人たちが音楽を奏でる中、ニノとイヴァは1台のゴンゴラに乗り合わせて食事をする。

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さらに車いすのおじさんをゴンドラに勝手に乗せたことで、イヴァとニノは給料をもらえなかったのだが、駅長からこっそり運賃が入ったカバンを奪い、村にお金をばらまいてしまう。

このお祭り騒ぎに、怒った駅長がゴンドラを暴走させてしまうが、ゴンドラは駅長に突っ込んでしまうのだ。

寛容と不寛容

撮影が行われたジョージアは芸術に寛容な国で、映画でも自由な表現が許されている。

しかしキリスト正教会が大きな影響力を持っていることもあり、保守的で同性愛に不寛容な一面もあるようだ。

2019年に公開された『ダンサー そして私たちは踊った』では同性愛がテーマとして描かれたことで、抗議活動が起こったほどだ。

しかし、イヴァとニノの自由な想像力はそういった不寛容さも乗り越えられるような気にさせてくれる。

何せゴンドラがすれ違う一瞬という時間でコミュニケーションを重ねて、お互いを尊重し、車いすの老人をゴンドラで宙に浮かせたのだ。

そう思うとニノがキャビンアテンドとして村から出て行ってしまってもこの2人なら大丈夫だという気にもさせてくれる。

そして2人のコミュニケーションは村の恋する少年と少女に引き継がれる。

この少年と少女もイヴァとニノと同じように相手がどうしたら相手が喜ぶかとお互いに尊重し合っていくに違いない。

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