太平洋戦争まっただなかの広島呉に嫁いだ“浦野すず”が、戦争の理不尽さに耐えながら懸命に生きる様子を描き、異例のロングランヒットを記録した『この世界の片隅に』。
この大ヒットをうけ、30分のカットを追加した『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が公開となりました。
追加カットと聞くと、ちょこっとカットを追加してあわよくばもう一儲け……という想像もしてしまいますが、この追加カットが物語やキャラクターに別のみかたを与えすばらしい内容になっています。
今回は『この世界の片隅に』から追加になったカットを解説していきます。
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』作品概要
公開日(日本):2019年12月20日
監督:片渕須直
キャスト:
北條(浦野)すず(のん)
北條周作(細谷佳正)
黒村径子(尾身美詞)
黒村晴美(稲葉菜月)
水原哲(小野大輔)
浦野すみ(潘めぐみ)
白木リン(岩井七世)
北條円太郎(牛山茂)
北條サン(新谷真弓)
テル(花澤香菜)
『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』追加シーン
“水原哲”登場シーン
前作では写生の授業ですずが哲の代わりに海の絵を描いてあげるシーンが哲の初登場シーンでした。
今作ではクラスで暴れまわり、すずの大切にしていた鉛筆を床下に落としてしまうという傍若無人っぷりを見せています。
この暴れっぷりが本当はナイーブな哲の本質に一層味わいを増しています。
小松菜の種を蒔く“すず”と“晴美”
配給所で佳子がもらってきた小松菜の種をすずと晴美一緒に蒔くシーンが追加。
晴美は種を蒔きながら軍艦を解説し、軍艦好きであることがより一層伝わってくるシーンです。
棚に残っていたカレー粉
北条家の台所ですすがカレー粉の残りを見つけ匂いをかぎます。
このあと一家はあまりの食料の足りなさに、米倍増の裏ワザ【楠公飯】を食べることに……
遊郭で再会する“すず”と“リン”
追加シーンの中で一番重要になってくるのがすずとリンの関係性の変化です。
前作でリンは、迷子になったすずの道案内をしてくれるだけの存在でした。
今作ではリンも片隅で生きる人間として大きな存在として描かれています。
産婦人科からの帰り道、妊娠していなかったすずは肩を落として遊郭に行くとリンと再会。
お互いに名も知らなかった2人は自己紹介をします。
読み書きが得意でないリンに、すずは絵を交えながら自己紹介。
リンは【いいお客さん】に書いてもらったという身元票をすずに見せます。
妊娠することで身の置き場が見つかると思っていて肩を落とすすずにリンは
「この世界にそうそう居場所はなくなりゃせんよ」と勇気づけます。
身元票を書いたのは――?
北条家でピンクの茶碗を見つけたすずは周作が過去に遊女に入れあげていたことを知ってしまいます。
さらに周作のノートには、リンの身元票と同じ大きさに切られた跡が残っていました。
リンの言う【いいお客さん】というのは周作のことだったとすずは知ってしまいます。
自分は代用品?
周作との夜の営みを断ったすずは、落ち葉で代用炭団をつくります。
自分はリンの代用品ではないかと疑念を示唆したシーンです。
この後のシーンでは「代用品のことを考えすぎて疲れた」とすずのセリフが……。
“テル”登場
周作がリンのために用意した茶碗を届けるため、すずは竹やりを持って遊郭へ向かいます。
しかしリンは接客中で門前払いを受けるも、風邪で寝込む遊女のテルに遭遇します。
客にくくられて川に飛び込んだと説明するテルに、すずはあたたかい南の島の絵を描いてあげます。
この後テルは肺炎で死亡してしまいますが、【さらにいくつもの】片隅で暮らしていた人々がいたということがわかるシーンです。
二河公園でのお花見
北条家として来ていたお花見で、すずはリンと再会し桜の木に登り話すことになります。
すずはリンからテルが亡くなったことを聞かされ、形見として紅入れを譲り受けます。
すずは周作とリンが再会してしまうことを恐れますが、実際に再会した二人は軽い会釈をするくらいですずの心配は無駄に終わるのでした。
“すみ”からのはがき
北条家を台風が襲いすずと周作ははしごで屋根に登るも、被害を拡大させてしまいます。
佳子はずぶぬれになりながらもすず宛のはがきを持ち帰ります。
はがきは泥だらけで読めないものの差出人がすみからだと判明。
円太郎は嵐の中帰宅し、42年間務めた海軍工廠をクビになったと報告するのでした。
跡形もなくなった遊郭
空襲のあと、周作に促され遊郭に向かったすず。
しかし遊郭は跡形もない焼野原となっていました。
すずはその焼野原からピンクの茶碗を発見。
すずは空想の中で、無くなってしまった右腕にテルの紅をつけ絵を描くのでした。
真っ青になりながらもすずを心配する知多さん
日傘をさし真っ青な顔ですずの前を通り過ぎる知多さん。
自らの具合の悪さをかえりみず、すずの右腕のことを心配してくれるのでした。
浦野家には戦争孤児が――
空襲で江波の実家が心配になったすずが帰郷するをボロボロになった実家の中には3人の戦争孤児が住み着いていました。
唯一の居場所として実家に帰ったつもりだったすずは、ここに居場所はないことを察し、黙って立ち去るのでした。
まとめ
人々の言うままにしてきたすずと、自分の思うように生きている佳子を軸に描かれた『この世界の片隅に』でしたが、リンの物語が深く絡んできます。
リンの物語が描かれることによってすずのやり場のなさがより強いものになり、ラストのすずの「この世界にうちを見つけてくれてありがとう」というセリフにもより一層共感できる内容となりました。
さらに、序盤ですずが見た【スイカを食べる幽霊】の正体は実はリンだったということもわかります。
ただ単に30分のサービスカットが追加という内容ではないので、『この世界の片隅に』がおもしろいと思った方はぜひ鑑賞してほしいです。