『PERFECT DAYS』あらすじと考察(ネタバレあり)

ドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが、役所広司を主演に迎え、東京・渋谷でトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたドラマ。

2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、役所が日本人俳優としては『誰も知らない』の柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を受賞。

東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したヴェンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた。

共演に新人・中野有紗のほか、田中泯、柄本時生、石川さゆり、三浦友和。カンヌ国際映画祭では男優賞とあわせ、キリスト教関連の団体から、人間の内面を豊かに描いた作品に贈られるエキュメニカル審査員賞も受賞しています。

『PERFECT DAYS』作品概要

公開日（日本）：2023年12月22日

監督：ヴィム・ヴェンダース

キャスト：
平山正木(役所広司)
ホームレス(田中泯)
ニコ(中野有紗)
タカシ(柄本時生)
アヤ(アオイヤマダ)
ケイコ(麻生佑美未)
ママ(石川さゆり)
友三(三浦友和)
古本屋の店主(犬山イヌコ)
居酒屋の店主(甲本雅裕)

PERFECT DAYS 公式サイト

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『PERFECT DAYS』あらすじ

東京渋谷の公衆トイレの清掃員・平山は押上の古いアパートに一人で暮らしています。

夜明け前に近所の老婆が掃除する竹ぼうきの音で目覚めると、畳の上に敷いた布団をたたみ、歯を磨き髭を整える。

趣味の盆栽に霧吹きで水を与え、清掃員の制服に着替え、小銭とガラケーをポケットにしまい玄関のドアを開ける。

外に出ると一度空を見上げ、自動販売機で缶コーヒーを買い、車でカセットテープを聴きながら仕事へ向かう。

いつもの公園ではホームレスの男性が人目も気にせず、謎の踊りを踊っている。

昼にはいつもの神社でサンドイッチを食べ、フィルムのカメラでいつもの木を撮影する。

清掃を終えると夕方にはアパートに戻り、自転車で銭湯に向かい、いつもの地下の居酒屋でいつものメニューを食べる。

再びアパートに戻ると布団を敷き、小さな明かりで文庫本を読みながら眠りにつき、翌朝はまたのほうきの音で目を覚ます。

週末の休みには部屋を掃除し、コインランドリーでまとめて洗濯をして、撮った写真を現像し新しいフィルムを購入する。

古本屋では店主の書評を聞きながら、１００円コーナーから新しい文庫本を購入して、居酒屋に行きママや常連客の話に耳を傾ける。

トイレの利用者は清掃員の平山のことをやはり見下している節がある。迷子の子供を見つけたときにはやさしく面倒を見てやるが、その母親は平山に礼も言わず、汚らしいという仕草まで見せて立ち去ってしまう。

そういうことを平山はあまり気にかけないようにしている。

清掃員の同僚のタカシは、だらしない性格で仕事にはよく遅刻してくる。

タカシは水商売のアヤに夢中で「金さえあればアヤちゃんをものにできる」と平山に泣きつき、平山が大切にしているカセットテープを売ろうとしてしまう。

意外にも高値が付いたカセットテープを平山は売ることはせず、黙ってタカシに金を貸してやる。

そんなタカシだが身体障碍者の男の子にはとてもやさしく接しているのを見て、平山はどこか嬉しい気持ちになる。

アヤは平山のカセットコレクションからパティ・スミスの「Redondo Beach」を気に入る。返しに来た時には平山の頬にキスをして立ち去り、平山は複雑な気持ちになる。

タカシはやはりだらしなく、ある日突然仕事に来なくなってしまう。その日はしかたなくタカシの分まで清掃をした平山は珍しく怒りをあらわにする。

そんな時、姪のニコが平山の家を訪ねてくる。どうやら家出をしてきたようだ。しかたなく平山はニコに布団を譲ってやり、自分は狭い居間で寝ることにする。

翌朝、ニコを起こさないように仕事に向かおうとすると、一緒に行きたいと言い、ニコと一緒に清掃を回る。ニコを連れて銭湯に行くと、顔なじみの客たちは若い女性を連れている平山を目を丸くして驚いている。

そんな日々も長くは続かず、ニコの母親で平山の妹のケイコがニコを迎えにやってくる。運転手をたずさえ高級車に乗ってきたケイコは、平山が住むボロアパートと本当にトイレの清掃員をしていることに驚きを隠せない。

どうやら平山の実家は金持ちだが、わけあって平山は好んでこの生活をしているようだ。

帰ることを拒むニコだったが平山は「いつ来てもいいから」と言い、ニコは帰ってしまう。

週末になるとママの居酒屋に向かうが、まだ店は開いておらず、ドアの隙間からこっそり店内を覗くとママは見知らぬ男性と抱き合っている。

しかたなく近所のコンビニで酒を買い、川辺で飲もうとすると、ママと抱き合っていた男が話しかけてくる。男はママの元夫で、ガンのため余命がわずかなことをママに知らせに来たというのだ。

平山は男に買った酒を渡してやり、一緒に飲むことにする。

男は不意に「影は重なると濃くなるのか？」と平山に尋ねる。

平山は試してみようと言い、2人で影を重ねてみるが濃くなっているのかはよくわからない。

しかし平山は納得がいかず「影が重なっても何も変化がないなんてそんな馬鹿な話はないでしょう」と言ってみせる。

その後平山と男はカゲフミをして遊んでみる。

平山は日々は同じルーティンの繰り返しに見えて人と触れ合うことで、喜んだり、怒ったり、泣いたりしながら続いていくのだった。

『PERFECT DAYS』考察

影は重なると濃くなるのか？

平山はトイレの清掃員という人と関わりの少ない仕事を選び、毎日のルーティンの中で生きている。タカシ(柄本時生)のおしゃべりに返答する気配はないし、実家はどうやら金持ちそうで、人と関わるのが嫌だから今の生活を選んだように見えます。

しかし居酒屋のママの元夫(三浦友和)の「影は重なると濃くなるのか？」という問いに平山は「濃くならないなんてそんな馬鹿な話はない」と答えます。

影というのは人をあらわしていて、このセリフから平山は人と関わりを持つことで、良くも悪くも影響を受けるのだという信念を持っていることが分かります。

影を重ねるシーンでは、物を重ねるのではなくわざわざ自分と元夫の影を重ねようとしています。

毎日同じ木の木漏れ日を撮影しているのも同じ理由で、同じものを同じように撮っても現像してみると違う写真が現れます。

毎日同じルーティンをこなしていても、生きている限り違う結果になるという平山の生き方がわかるシーンです。

『PERFECT DAYS』のパンフレットの表紙。

同じ「PERFECT DAY」という版を押しても、かすれたり欠けたり時には綺麗に押すこともできる。そう日々が重なって「PERFECT DAYS」になるというとてもいいデザインです。

作中に登場する小説

劇中に登場する本は登場人物の想いを表現しています。
ニコはパトリシア・ハイスミス「11の物語」の物語を読み「私、ヴィクターみたいになっちゃうよ」と言いますが、「11の物語」に収録されている「すっぽん」でヴィクターは母親を包丁で殺してしまいます。
ニコの日々の息苦しさがよくわかるセリフです。

その後、平山は「11の物語」を買いなおすシーンがありますが、物語の内容を忘れていたのか、単に本棚に読んだ本が収まっていないのが気になるのかはちょっとわかりません。忘れていたのではないといいですが……

平山が読んでいる幸田文の「木」は、木に想いを馳せるというのは人生が豊かになることだと教えてくれるとても良いエッセイです。
丁寧な文章で行間にも想いが感じられ、平山の人生と通じるものがあります。

「木」　幸田文

「野生の棕櫚」　ウィリアム・フォークナー

「11の物語」　パトリシア・ハイスミス

作中で平山が聴く音楽

「THE HOUSE OF THE RISING SUN」　The Animals

「Pale Blue Eyes」　The Velvet Underground

「[Sittin’ On] the Dock of the Bay」 Otis Redding

「Redondo Beach」 Patti Smith

「(Walkin’ Thru The) Sleepy City」 The Rolling Stones

「青い魚」金延幸子

「Perfect Day」 Lou Reed

「Sunny Afternoon」The Kinksd

「Brown Eyed Girl」Van Morrison

「Feeling Good」Nina Simone

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小津安二郎の作品も視聴可能

小津安二郎のことを「私の師匠」と呼ぶほどで、小津作品にオマージュをささげたドキュメンタリー『東京画』を撮るほどのヴィム・ヴェンダース。

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完璧なカットを追求し物の配置から役者の動きの細部までこだわりつくした小津に対し、シナリオすら用意しないときもあるヴェンダース。

撮り方こそ違えど、その時にしか撮れないものの表現であったり、行間から感じる登場人物の感情のとらえ方というのはやはり影響を受けているんだなと感じずにはいられません。