『憐れみの3章』あらすじと考察(ネタバレあり)

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『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』に続いてヨルゴス・ランティモス監督とエマ・ストーンがタッグを組み、愛と支配をめぐる3つの物語で構成したアンソロジー。

『哀れなるものたち』にも出演したウィレム・デフォーやマーガレット・クアリーのほか、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェシー・プレモンス、『ザ・ホエール』のホン・チャウが初参加。

3つの物語の中で同じキャストがそれぞれ異なる役柄を演じています。

『ロブスター』『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』でもランティモス監督と組んだエフティミス・フィリップが共同脚本を担当し、『女王陛下のお気に入り』『哀れなるものたち』では影を潜めたヨルゴス・ランティモスらしい不条理な愛や支配が描かれています。

2024年・第77回カンヌ国際映画祭でプレモンスが男優賞を受賞しています。

『憐れみの3章』作品概要

https://youtu.be/fj_isqFRbt4
公開日(日本):2024年9月27日

監督:ヨルゴス・ランティモス

キャスト
リタ/リズ/エミリー(エマ・ストーン)
ロバート/ダニエル/アンドリュー(ジェシー・プレモンス)
レイモンド/ジョージ/オミ(ウィレム・デフォー)
ヴィヴィアン/マーサ/ルース/レベッカ(マーガレット・クアリー)
サラ/シャロン/アカ(ホン・チャウ)
収集品鑑定人/ジェリー/ジョセフ(ジョー・アルウィン)
ウィル/ニール/死体安置所の看護師(ママドゥ・アティエ)
アナ(ハンター・シェイファー)

『憐れみの3章』あらすじと考察

R.M.F.の死

ロバートは故意にある男が運転するBMWに自身の車を衝突させる。

ロバートは病院に運ばれるも軽傷ですみ、相手の男も死ぬことはなかった。

その後ロバートの家には1984年にジョン・マッケンローが壊したというラケットが届き、ロバートもロバートの妻のサラもこのプレゼントに感激する。

プレゼントの送り主で、ロバートの雇い主のレイモンドはロバートの食生活から妻との性生活を把握し、ロバートはレイモンドの指示に従う生活を送っている。

過去に妻が流産してしまったのもレイモンドの指示だった。

レイモンドは今度はもっと高速で車を衝突させるようにロバートに指示するも、相手を殺してしまうことを恐れたロバートはこれを拒否。

するとレイモンドはロバートに絶交を言い渡し、ジョン・マッケンローのラケットも取り上げてしまう。

ロバートの生活はうまくいかなくなり、妻は出て行ってしまう。

そもそもロバートが妻と出会ったのは、レイモンドの指示で自傷を行い、妻の気を引いてのものだった。

ロバートは妻と出会ったバーで自傷行為に出て、リタという女性の気を引くことに成功する。

ロバートはお礼としてリタをディナーに誘うも、ディナーの当日、リタは交通事故に遭い入院してしまう。

ロバートがお見舞いに行くと、病室にはレイモンドの姿がある。

リタはBMWと衝突してしまったという。

ロバートが不審に思い、こっそりとリタの家に侵入すると、部屋にはジョン・マッケンローのラケットが置いてあり、リタはレイモンドの指示に従っているのだと悟る。

その後ロバートは入院しているBMWを運転していた男を病室から無理やり引きずり出し、車で轢き殺してしまう。

このことをレイモンドに報告すると、レイモンドは優しくロバートを迎え入れるのだった。

R.M.Fは飛ぶ

警察官のダニエルは海洋調査に出た切り行方不明になっている妻のリズのことを想い、精神的にダメージを追っている。

ダニエルのことを励まそうと同僚のニールとその妻のマーサはディナーを企画する。

ダニエルは思い出のビデオが観たいと言い、3人は4人楽しんだ性行為のビデオを鑑賞する。

しばらくするとリズが発見されたという報告が入り、衰弱していたものの命に別状はなかった。

リズのほかには重体のジョナサンが救出されるが、ほかのメンバーは遺体で発見される。

リズは家に帰ってきたものの、飼い猫はリズを威嚇し、お気に入りの靴のサイズが合わず、嫌いだったはずのチョコレートケーキを平らげる。

さらになかなか妊娠することななかったリズに妊娠が発覚する。

ダニエルはリズのことを別人だと疑いだし、信号無視で捕まえた青年の手を誤って撃ってしまうなど、仕事にも支障がきたし始める。

リズの父親のジョージは、ダニエルの奇行に娘を心配するも、リズはダニエルをかばい続ける。

やがて食事を拒みだすダニエルだったが、ダニエルは突然リズの指を食べたいと言い出す。

リズはその注文に応え、自身の指を切り落とす。

さらにダニエルの要望は大きくなり、リズの肝臓が食べたいと言い出す。

リズは要望に応え、腹を切り肝臓を取り出し絶命してしまう。

しかし、玄関からは新たなリズらしき人物が現れるのだった。

R.M.F.サンドイッチを食べる

エミリーとアンドリューはアナを死体安置所に連れて行く。

アナに死体に触れさせ、蘇らせる能力があるか確認するが、アナにはその能力は無いようだ。

二人はオミとアカがリーダーを務めるカルト教団に所属しており、教団のために教祖にふさわしい死者を蘇らせる能力を持った人物を探しているのだ。

教団に帰った二人は清浄な存在とされているオミと肉体関係を持つ。

教祖の資格として求められるのは、双子の女性で、双子のうちのもう一人が亡くなっていること。

エミリーは夢の中でその双子に会ったことがあり、ある日その夢にそっくりなレベッカに遭遇する。

しかし、元夫に薬を盛られ望まぬ性行為を強要された結果、清浄な身体ではなくなってしまい、教団を追放されてしまう。

その後エミリーはレベッカに会い、レベッカは双子の姉であるルースに会ってほしいとエミリーに頼むもエミリーは「双子の片方は死んでいなければならない」という条件に当てはまっていないことを懸念する。

するとレベッカは水の入っていないプールに飛び込んで死んでしまう。

エミリーは獣医でとして働くルースの元に、ケガをした犬を連れて行くと、犬のケガはあっという間に治ってしまう。

エミリーは、ルースを眠らせ遺体安置所に連れて行き、ルースを安置所の遺体の触れさせると遺体は蘇る。

ルースが探し求めていた人物であることを確証したエミリーは、意識朦朧のルースを再び車に乗せ教団に向かうも不注意から事故を起こしてしまう。

フロントガラスから飛び出してしまったルースは血塗れとなり、再び動くことはなかった。

R.F.M.とはなにか

3つすべての章で殺されたり生き返ったりする男のシャツの胸ポケットにはR.M.F.という文字が刺繍されています。

Redemption(救い)・Manipulation(操作)・Faith(信仰)という説があるようです。

しかし、最初の「R」は救いというよりもReliance(依存)ではないかという説もあります。

「アンナ・カレーニナ」との共通点

レイモンドは自分の支配に置くロバートとリタに「アンナ・カレーニナ」を読むように指示している。

「アンナ・カレーニナ」は「戦争と平和」で知られるトルストイによって1875年に発表された長編小説で何度も映画化もされています。

物語の舞台は1870年のロシア。

政府高官・カレーニンの妻であるアンナは、子供がいながらもモスクワで若い貴族の将校・ヴロンスキーと出逢い恋に落ち不倫関係となってしまう。

カレーニンは高い地位にありながらも、容姿端麗というわけではなく、世間体を気にする男でアンナの求めるいわゆる愛情というものは注いでくれない。

一方でヴロンスキーは精神的にも肉体的にもアンナに愛情を見せてくれる。

アンナは愛のない結婚生活はまさに地獄だと思っており、不倫というルール違反が社交界から締め出されてしまうことを知りながらもヴロンスキーと愛をはぐくんでいく。

しかし、やはり社交界から締め出されるつらさや、カレーニンが策略的に離婚に応じてくれないことでヴロンスキーとも気持ちがすれ違い自殺してしまうのだ。

ルールに従っておけばよかった

「アンナ・カレーニナ」でアンナは社交界のルール(人間が創ったルール)に従えば自殺に追い込まれることはありませんでした。

さらに、政府高官の妻といういい身分でいられるのです。

ロバートも同じようにレイモンドの指示に従っているのが楽だと考えたのかもしれません。

原題は【Kinds of Kindness】

『憐みの3章』の原題は【Kinds of Kindness】。

「親切の種類」「ある種の親切心」といった意味で、ヨルゴス・ランティモス監督が得意とする、不条理ながら心の奥底で妙に納得させられるある種の愛が描かれています。

「アンナ・カレーニナ」にも様々な愛が描かれています。

ヴロンスキーのことが好きなキティはヴロンスキーに振られたことにより、病気になってしまったり、ヴロンスキーはアンナが故郷に帰ってしまったことでピストル自殺を試みたり、カレーニンがアンナを許し、離婚に応じないのも策略があってのことでした。

アンナの書き分け

「アンナ・カレーニナ」でのアンナは、夫の前での姿、ヴロンスキーの前での姿、夫とヴロンスキーが同時にいるときの姿と見事に書き分けられている。

『憐みの3章』でも同じ俳優が違うキャラクターを演じており、同じ人物でも状況によってキャラクターが変わるという意味で共通点が見られます。

 

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