『すばらしき世界』作品概要
公開日:2021年2月11日
監督:西川美和
キャスト:
三上正夫(役所広司)
津乃田龍太郎(仲野太賀)
松本良介(六角精児)
井口久俊(北村有起哉)
下稲葉明雅(白竜)
下稲葉マス子(キムラ緑子)
吉澤遥(長澤まさみ)
西尾久美子(安田成美)
庄司敦子(梶芽衣子)
庄司勉(橋爪功)
『すばらしき世界』あらすじ
殺人の罪を犯した 三上正夫(役所広司)は13年の刑期を満了し、晴れて北海道の刑務所から出所する。
少年のときからヤクザとして生き、何度も刑務所に入ってきたが、今度こそは堅気として生きることを胸に誓う三上。
東京では弁護士の庄司(橋爪功)が出迎えてくれ、生活保護の申請や住居の確保など生きる上で必要なサポートをほどこしてくれる。
三上には幼少期に生き分けれた母親がいて、TV局に探してくれるよう依頼をかける。
三上の依頼に現れたのは、小説家を目指す津乃田(仲野太賀)とディレクターの吉澤(長澤まさみ)だ。
2人は真剣に三上の母親を探すつもりはなく、殺人を犯した元ヤクザを「いいネタ」としてしか見ていない。
そんな中、三上を万引き犯と間違えてしまったスーパーの店長(六角精児)や、生活保護の担当者(北村有起哉)は三上のまっすぐさに惹かれていき次第に真剣に三上をサポートするようになる。
はじめは三上を企画の「食い物」としてしか見ていなかった津野田も、三上の人柄に触れ、TVとは関係なく三上と交流するようになる。
しかし、元ヤクザが生きていくうえで、現代社会はあまりにも厳しすぎる。
三上は持ち前の短気で幾度となく周りの人間と衝突し、仕事も見つけることができず、ついにかつて交流のあったヤクザ仲間(白竜)を頼ってしまう。
三上が福岡に到着するとヤクザたちは盛大に三上を迎え入れる。
しかし、現代ではヤクザも楽ではなく、警察が家宅捜査に入ってしまう。
ヤクザ仲間の妻(キムラ緑子)は三上が警察に見つかる前に、「あんたはまだ娑婆で生きていくチャンスがある」と東京に三上を送り返す。
東京に戻った三上はついに老人介護施設での仕事を手に入れる。
その施設では障碍者雇用があり、職員たちはなにかにつけてその障碍者をいじめている。
本来の三上はいじめなど見つけ次第、いじめているほうをぼこぼこにしていたが、周りから見て見ぬ振りも大事だと教えられ、何とか施設でもうまく立ち回れるようになっていく。
しかし、幸せを掴みかけている三上は持病から急死してしまう。
三上を慕っていた津野田たちは三上の突然の死に心から悲しむのでした。
『すばらしき世界』考察・感想
邦画の良いところは演技の良し悪しがわかりやすいところだとこの作品を観て改めて思いました。
そのくらい『すばらしき世界』出演している俳優たちは、セリフや表情で感情を語るのがうまく、本作が面白いと感じる一番の要因となっていた。
役所広司の演技がすごいのはもやは語るまでもないですが、脇を固める俳優たちもとにかくすごかった。
仲野太賀(津乃田龍太郎役)の存在感
仲野太賀と言えば『桐島部活やめるってよ』以降、ときどき目にするくらいでしたが、最近では『あの頃。』やドラマ『この恋あたためますか』で主演級の出演が多くテレビで観ない日はないほどだ。
本作では小説家になるために会社を辞めるもうまくいかず、好きな人にも告白できないという冴えない役だが、「仲野太賀って普段もこういう人なんだろうな」と勝手に想像してしまうほどこの役を自分ものにしていた。
なかでも銭湯で三上の背中を流しながら「三上さん、もとに(ヤクザに)戻らないでください」というセリフの声の震えや表情がとにかくすばらしい。
この映画を観た多くの人が、登場人物の中で一番共感したのもこの津野田だと思う。
三上がおやじ狩りをするチンピラを捕まえ半殺しにしたとき、津野田はカメラを回すことも止めに入ることもできず逃げてしまう。
ジャーナリズム(仕事)を貫き通すことも正義を振りかざすこともできないのだ。
ほとんどの人間が同じ状況に置かれたとき、仕事を優先することも自分を犠牲にすることもできないと思う。
それは三上の価値観とは全く逆のもので、物語をより一層リアリティにすることにも一役買っている。
それにしても逃げた津野田を捕まえ、津野田を怒鳴る吉澤遥(長澤まさみ)も仕事最優先のクズっぷりが徹底されていてすばらしかったですね。
六角精児(松本良介役)の笑顔
スーパーの店長を演じる六角精児もとてつもない存在感を放っていました。
三上を万引き犯と間違えるとんでもなく嫌な奴という登場のしかたで、三上が生きていくうえで邪魔になる人物が登場したんだと予感させられました。
しかし物語が進むにつれ、叱ってくれたり応援してくれたりと、三上に一番親身になっていたのがこの男でした。
中でも三上の仕事が決まったとき、自分のことのように喜ぶその笑顔は、本当に素晴らしかった。
橋爪功(庄司勉役)になぜ共感できないのか?
上で六角精児演じるスーパーの店員が一番三上を支えたと書いたが、生活するうえで三上を一番支えたのは、橋爪功演じる弁護士の先生だ。
北海道から帰京する見ず知らずの三上の身元引受人となり、生活するうえで必要なことはすべて先生が用意してくれる。
しかしいまいちこの人物に共感できないのはなぜだろうか?
元犯罪者をあそこまで援助するという行為が私たちがの生活からあまりにもかけ離れているということも理由の1つかもしれない。
だが一番の理由は先生が三上を助けるうえで、しっかりとルールを作っているということだ。
三上が困って先生のマンションを訪れたとき、先生は孫が遊びに来ているからと取り合ってくれない。
家族が優先なのは当たり前だが、こちらとしてはすでに三上に感情移入しまくってしまっているので「助けてあげてよ!」と感じてしまうのだ。
ラストシーンではなぜ空のカットで終わるのか?
仕事を見つけ周りと馴染み、元妻とデートの約束をして幸福感に包まれる中、三上は持病で亡くなってしまう。
三上を慕っていた登場人物が集まったところで、空が映し出されタイトルが出て映画は終わる。
三上は幸せだったのか?そしてなぜ空のカットで終わるのか?
それはキムラ緑子演じる下柳葉マスコ子のセリフに答えがある。
白竜演じる下柳葉明雅のもとに警察が押しかけ、マス子は三上に東京へ帰り堅気として生きるように促す。
「娑婆は我慢の連続ですよ。我慢のわりにたいして面白うもなか。そやけど空が広いちいいますよ。」
広い空は三上が堅気として生きて幸せになれたという象徴なのだ。
そして三上のもとに集まった人物が三上の死を心から悲しんでくれる。
三上の死を心から悲しんでくれる仲間が三上にとっての「すばらしき世界」なのでしょう。