『エイリアン』『オデッセイ』など数々の大作を生み出してきた巨匠リドリー・スコット監督がフランスの英雄ナポレオン・ボナパルトの人物像を新解釈で描いた歴史大作。
ナポレオンを演じるのはリドリー・スコットとは『グラディエーター』以来23年ぶりタッグとなり『ジョーカー』での主演男優賞受賞が記憶に新しいホアキン・フェニックス。
妻ジョゼフィーヌ役に『ミッション：インポッシブル』シリーズでホワイト・ウィドウを演じたのヴァネッサ・カービー。
『ゲティ家の身代金』でもリドリー・スコットと組んだデビッド・スカルパが脚本を手がけています。
『ナポレオン』作品概要
公開日（日本）：2023年12月1日
監督：リドリー・スコット
キャスト：
ナポレオン(ホアキン・フェニックス)
ジョセフィーヌ(ヴァネッサ・カービー)
ポール・バラス(タハール・ラヒム)
アーサー・ウェルズリー・ウェリントン公爵(ルパート・エベレット)
ジュノ(マーク・ボナー)
タレイラン(ポール・リス)
コーランクール(ベン・マイルズ)
テレーズ・カバリュス(リュディヴィーヌ・サエニ)
アレクサンドル1世(エドゥアール・フィリポナ)
タヴー元帥(ユーセフ・カーコア)
ネイ元帥(ジョン・ホリングワース)
ウジェーヌ・ボーアルネ(ベンジャミン・チーバス)
リュシアン・ボナパルト(マシュー・ニーダム)
マリー・アントワネット(キャサリン・ウォーカー)
ルイ18世(イアン・マクニース)
マリー・ルイーズ(アンナ・モーン)
『ナポレオン』あらすじ
マリー・アントワネットの処刑 トゥーロンの戦い
1973年、フランス革命でルイ16世が処刑され、その王妃マリー・アントワネットもギロチンにかけられる。
コルシカ島に生まれた軍人のナポレオン・ボナパルトは、王政支持者が支配するフランス南部の都市トゥーロンを大砲を使った大胆な戦法で奪還することに成功。
さらにパリでの王政支持者による反乱を市民に向けて大砲を撃つという大胆な戦法で抑え込み鎮圧。
軍の総司令官に任命される。
ジョセフィーヌとの出会い エジプト遠征
1796年になるとロベスピエールによる恐怖政治が始まるも、ロベスピエールはクーデターによって失脚。
恐怖政治の元で処刑された夫を持つ未亡人のジョセフィーヌに元夫の軍刀を届けたことから親密な関係になり結婚する。
ナポレオンは軍を率いてエジプトに遠征するも、ジョセフィーヌの浮気が発覚。
自軍をクレーベルに託しフランスに戻ると、ジョセフィーヌに激怒する。
ジョセフィーヌは涙ながらに謝罪するが、ナポレオンは完全にジョセフィーヌに魅了されており、夫婦関係は奇妙に続いていく。
第一統領に就任 ロシア遠征の失敗
エジプト遠征での敵前逃亡罪の疑惑がかかるナポレオンは、クーデターを起こし統領政府を樹立。第一統領に就任する。
さらに快進撃を続けるナポレオンは国民投票によって皇帝の地位につき、ジョセフィーヌも皇后となる。
しかしジョセフィーヌが子供を産めないことを理由に、ナポレオンとジョセフィーヌは離婚。ナポレオンはオーストリアの皇女マリ・ルイーズと再婚し子供を授かります。
これまで苦戦を強いられてきたイギリスに対抗するためロシアと手を結びますが、ロシアはこれを裏切りナポレオンは激怒。
ロシアに遠征するもロシア軍の焦土作戦と冬将軍の到来が重なり60万人いた軍隊はわずか5,000人となりフランスに帰国。
この失敗を理由にナポレオンはエルバ島へと島流しになってしまう。
エルバ島からの脱出 ワーテルローの戦い
1815年、ナポレオンはエルバ島から脱出し、フランスに返り咲く。
フランス王に即位していたルイ18世への不満もあり、軍はナポレオンの帰りに歓喜する。
しかし、イギリスとプロイセンの連合軍をにしたワーテルローの戦いでは、イギリス軍の戦術に手も足も出ず敗退。
ナポレオンは再び退位に追い込まれ、イギリスのセントヘレナ島へ島流しになってしまう。
幽閉されたナポレオンはセントヘレナ島で生涯を終える。
ナポレオンの最期の言葉は「フランス。軍隊。ジョゼフィーヌ」でした。
『ナポレオン』考察
忠実な史実に加えたジョセフィーヌという存在
マリー・アントワネットの処刑から「トゥーロンの戦い」「エジプト遠征」など数々の功績を称えられ皇帝に即位。国民に愛されながらもロシア遠征に失敗し島流しに会うも、再び返り咲く……。
誰もが知っているナポレオンの歴史ですが、本作ではジョセフィーヌの存在が大きく描かれています。
エジプト遠征から自軍を置き去りに帰国する理由を「ジョセフィーヌの浮気」として描いていますが、歴史的にみるとイギリス艦隊にフランス艦隊が敗北したことにより国内が危機に陥ったために帰国したということが有力視されています。
ではなぜここまでジョセフィーヌの存在が大きく描かれているのでしょうか？
キューブリックの失敗とリドリー・スコットの得意分野
「ナポレオン」は、リドリー・スコットの尊敬するスタンリー・キューブリック監督が挑戦した題材だったのですが、実現に至りませんでした。
ナポレオンの歴史を改めてみてみると、確かに大きな功績を挙げ島流しからも奪還するという面白さはあるものの意外と淡々としていることが分かります。
イギリスやロシアを大きなライバルとして描き、歴史スぺクタルとして描いても良かったのかもしれませんが、ナポレオンにはライバルが多すぎるため、映画の尺には収まりそうもありません。
そこでリドリー・スコットは自分の得意分野でナポレオンを描いたのだと思います。
『エイリアン』や『ブレードランナー』などのSF作品のイメージが大きいリドリー・スコットですが前作『ハウス・オブ・グッチ』ではレディー・ガガ演じるパトリツィアがグッチ家を翻弄していく様子を見事に描いていました。
一財を成した一家を一般女性が翻弄するという構図は意外と見ごたえがあり、本作でもジョセフィーヌに翻弄されるナポレオンの様子は新しいナポレオン像として「もしかしたら本当にそうだったかもしれない」という説得力がありました。
1対1の決闘
リドリー・スコットの映画では1対１の戦いの構造がよく描かれています。
長編デビュー作『デュエリスト/決闘者』では、ナポレオンの支配下の二人が決闘を繰り返す様子が描かれ、『エイリアン』ではリプリーとエイリアン、『ハンニバル』ではレクター博士とクラリスといった対立関係でありながらも奇妙な愛情で結ばれている2人の様子を多くの作品で描いています。
本作でナポレオンと対立関係となるのは他国のライバルではなく、ジョセフィーヌなのです。
本作では子供が産めないからと言って離婚され、かわいそうに描かれていたジョセフィーヌですが、「世界三大悪妻」と評されるほど不倫や浪費に明け暮れていました。
ジョセフィーヌの浮気はしっかりと描きながらも、ただの悪女としては描かず、「もしナポレオンがジョセフィーヌと離婚していなければもっと成功していたのでは」と思わずにはいられない描き方がされています。
ジョセフィーヌを対立関係として見せることにより、あのナポレオンですらジョセフィーヌの前では自分を大きく見せようと必死になり、その必死さが滑稽で、物語の面白さに一役買っています。
戦争や政治的手腕をよく語られるナポレオンですが、ジョセフィーヌを描くことにより、家庭ではこうだったかもしれないということが見れたのも本作のポイントだと思います。
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