アメリカのファッションドール【バービー】を、『レディ・バード』『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』の監督を務めた“グレタ・ガーウィグ”により実写映画化。
共同脚本には『フランシス・ハ』や『ホワイト・ノイズ』で”グレタ・ガーウィグ”をキャストとして起用し、NETLIXで公開された『マリッジ・ストーリー』で注目を集めた“ノア・バームバック”が参加しています。
ピンクに彩られた夢のような世界「バービーランド」で、主役の「定番バービー」と演じるのは“マーゴット・ロビー”。バービーの恋人?役の「ケン」には“ライアン・ゴズリング”や“シム・リウ”らが起用されています。
ただの「フェミニズム映画」だと思われがちの本作ですが、様々なメッセージが込められた作品となっているので、あらすじとともに書いていければと思います。
『バービー』作品概要
https://youtu.be/BgVqM_LE0pE
公開日(日本):2023年8月11日
監督:グレタ・ガーウィグ
キャスト:
バービー(マーゴット・ロビー)
ケン(ライアン・ゴズリング)
グロリア(アメリカ・フェレ―ラ)
変てこバービー(ケイト・マッキノン)
アラン(マイケル・セラ)
サーシャ(アリアナ・グリーンブラット)
大統領バービー(イッサ・レイ)
『バービー』あらすじ
「赤ちゃん人形」から「理想の人形」へ
『2001年宇宙の旅』で類人猿がモノリスに触れ、打製石器を使えるように進化したようにーー。
これまで女の子は「母になりたい」という感情から、赤ちゃんの人形でおままごとをして遊んでいました。
しかし、バービー人形の登場これまでの概念は一遍。
女の子たちは「母になりたい」という感情から人形を介して「理想の女性を想い描く」という遊び方に変容しました。
ピンクで彩られた【バービーランド】
【バービーランド】では、様々なバービーが理想の世界を築いています。大統領もバービーだし、宇宙飛行士もバービー、女性の権利を主張する活動家もバービーです。
バービーたちの足はハイヒールを履くために常につま先立ちになっていて、バービーランドには水や重力という概念が存在しません。
一方でバービーランドに存在する男性は(1人だけ存在するアランを除いて)全員「ケン」です。
ケンは常にバービーに良いところを見せようと必死で、「ビーチの人」というサーファーでもなければライフセイバーでもないよくわからない職業を割り当てられています。
ケンはバービーを口説きますが、バービーたちは毎晩女子会を開催するので、バービーとケンの仲が進展することはありません。ケンは家もないので、夜になるとどこかへ消えていきます。
定番バービー(マーゴット・ロビー)がある日「死」いついて考えると、それまでハッピーだったバービーたちは急に黙ってしまいます。バービーの世界に死は存在しませんが、死(ネガティブなこと)について考えることはご法度です。
定番バービーは「死」について考えた直後から、つま先立ちだった足はペタンコになり、太ももにはセルライトが付いてしまいます。
困った定番バービーは、変てこハウスに住む「変てこバービー」に相談することにします。変てこバービーはかつての持ち主に乱暴に扱われ、顔中落書きだらけで、足は180度に開いたまま戻りません。
変てこバービーが言うには、定番バービーのかつての持ち主が問題を抱えていてその問題を解決しない限り、定番バービーに現れた症状は元に戻らないようです。
バービーは意を決して人間界に向かうことにします。人間界にはケンも着いてきました。
人間界で浮きまくるバービーとケン
ロサンゼルスに到着したバービーとケンでしたが、2人の派手な服装は周囲から浮きまくってしまいます。
バービーは元持ち主の女子高生「サーシャ」に会いますが、サーシャは反抗期で、美しい見た目のバービーが「女性の定番」という型にはまっていることに対して「フェミニズムを30年遅らせた」「ファシスト」と言い放ちバービーは泣いてしまいます。
一方でケンは人間界では男性が鍛えビジネスをしていることに感動します。さらに女性から敬語で時間を聞かれたことに感銘を受け、この体験を伝えようと一人でバービーランドへ帰ります。
さらに一方で、バービーを開発したマテル社では、バービーランドからバービーが人間界に逃げ出したことで大騒ぎになっています。バービーを捕まえ箱に入れようとしますが、バービーはふと持ち主がいたときのことを思い出します。
バービーの持ち主はサーシャではなく、サーシャの母でマテル社で受付として働くグロリアでした。
グロリアは母としてうまくいかないことで死を考える「鬱バービー」をスケッチしていました。その影響が定番バービーに現れたのです。
グロリアとサーシャはバービーがマテル社に追われていることを知り、バービーを助けて、3人でバービーランドへ向かいます。
マテル社の重役たちも3人のあとを追いかけます。
男社会と化したバービーランド
バービー、グロリア、サーシャの3人がバービーランドに着くと、バービーランドはケンによるよくわからない男社会に染まり切っていました。
ドリームハウスは「道場・カサ・ハウス」に生まれ変わり、輝かしい職業についていたはずのバービーたちは、ケンたちのビール運びや、マッサージなど「ケンのサポート」の仕事をさせられるように洗脳されていました。
さらにケンたちは投票によってケンによるケンのための国を創ろうとしています。
3人は男が喜ぶこと(『ゴッド・ファーザー』のうんちくを喜んで聞いてあげるとか)を率先して行い、その隙に洗脳されたバービーたちを洗脳から解放していきます。さらにケンたちの言うことを従順に聞くふりをして急に手のひらを返し、ケンたち同士で争わせます。
その結果ケンたちは自分たちで決めた法改正の投票日のことを忘れ、バービーたちはバービーランドのルールを守ることができました。
ケンたちもツライ
バービーの「添え物」でしかないことに不満があってバービーランドを変えようとしたケンでしたが、リーダーシップを取ることはつらかったとバービーに泣きつきます。
そこにマテル社の重役たちもバービーランドにやってきて、ケンに同情します。
大統領バービーはこれからはケンたちにも少しずつ活躍の場を設けると約束します。
さらに、バービーの開発者で亡くなったはずの「ルース・ハンドラー」が登場します。
人間として生きることに迷っていた定番バービーに「親の意見を伺う必要はない」と背中を押します。
後日――。
人間界で人間として暮らすバービーは「バーバラ・ハンドラー」と名乗り産婦人科を受診しているのでした。
『バービー』考察
ラストの意味は?
バービーの開発者であるルース・ハンドラーに背中を押され、人間界で人間として生きていくことを決めた定番バービー。産婦人科を受診しているということは妊娠しているということでしょう。
“グレタ・ガーウィグ”監督と言えば『レディ・バード』では自分の居場所に不満を覚えながら都会に旅立つ女性の姿を、『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』では時代に捕らわれず自分の想い描いたキャリアを全うする女性の姿を描いています。
『バービー』でも過去の2作品と同じテーマが描かれています。
定番バービーも定番という型を破り、人間界に旅立ちます。『ストーリー・オブ・マイライフ』のジョーと同じように型にハマらず自由に生きるという選択をバービーはするのです。。
それにしても妊婦という設定の”ミッジ”が廃盤になっているというのはちょっと闇が深いように感じるし、カメラに映ろうとすると映さないようにカメラが移動するという演出も風刺が効いています。
ゴリゴリのフェミニズム映画と思いきや・・・
物語の途中まで女社会万歳といったようなフェミニズム全開で進む本作。
男性だけの社会として描かれたマテル社はとことん変てこに描かれているし、グロリアがバービーたちの洗脳を解くきっかけとなった、現代社会に対する不満爆発シーンははまさにフェミニズム全開でした。
しかし最終的にはリーダーシップをとる男性たちも不満があるし、ケンたちにも役割を与えていこうという形で終わりました。
マテル社の重役たちはなぜ変な動きをするのか?
バービーがマテル社から逃げ出そうとするとき、マテル社の重役たちはなぜか変な動きをしてバービーを捕まえることができません。
これはバービーランドが「間違った女社会」として描かれているのに対し、マテル社は「間違った男社会」として描かれているからです。
バービーランドが「毎日女子だけでナイトパーティーを開催する」とか「男女の仲が進展しない」というのが【変】だと感じるように、男だけの社会も変だということが表現されたシーンです。
この映画の本質的なことがこのシーンに集約しています。