『万引き家族』でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞し、話題をさらった是枝裕和監督初の国際共同製作作品。
主演には『シェブールの傘』などで主演を務めた映画界の至宝“カトリーヌ・ドヌーブ”。
日本人監督として初となるヴェネチア国際映画祭コンペティンション部門のオープニング作品に選出され、世界的にも注目が集まっております。
『真実』作品概要
公開日(日本):2019年10月11日
監督:是枝裕和
キャスト:
ファビエンヌ・ダンジュヴィル(カトリーヌ・ドヌーブ)
リュミール(ジュリエット・ビノシュ)
ハンク・クーパー(イーサン・ホーク)
アンナ・ルロワ(リュディビーヌ・サニエ)
シャルロット(クレモンティーヌ・グルニエ)
マノン・ルノワール(マノン・クラベル)
リュック(アラン・リボル)
ジャック(クリスチャン・クラエ)
ピエール(ロジェ・バン・オール)
『真実』あらすじ
フランス映画界の大女優“ファビエンヌ・ダンジュヴィル”は、自身の自伝本「真実」の出版を間近に控えています。
ニューヨークで暮らす娘で脚本家の“リュミール”は、夫の“ハンク・クーパー”と娘の“シャルロット”とともにパリのファビエンヌ家を訪れます。
ファビエンヌと秘書の“リュック”、今の夫で料理担当の“ジャック”は暖かくリュミール一家を迎え入れます。
リュミールは出版のお祝いのためという建前で、出版前に自伝に書かれている内容を確認するために訪れたのです。
リュミールは一晩かけて自伝を読み、翌朝ファビエンヌに抗議します。
自伝本には、真実とはあまりにかけ離れていることが書かれていました。
中でもリュミールは、ファビエンヌの友人でもあり女優で今は亡き“サラ”のことが書かれていないことに納得がいきませんでした。
ファビエンヌがリュミールの育児に奮闘したと書いてありますが、事実、サラがそのほとんどを務めていたのです。
しかしファビエンヌは「事実なんて書いても退屈だわ」とリュミールのことを相手にしません。
ファビエンヌは自身が出演し、間もなく撮影が始まるSF映画『母の記憶に』を「大したことがない映画」だと酷評します。
『母の記憶に』の主演女優“マノン・ルノワール”は、サラの再来と巷で騒がれています。
リュックはファビンヌが映画への出演を決めたのはマノンの存在が気になったからだとリュミールに教えてくれます。
しかし、そのリュックは突然秘書を辞めると言いだし、リュミールにその役割を言い渡し出て行ってしまいます。
長年秘書としてファビエンヌに寄り添ったリュックも「真実」に一度も出てくることはなく、自身の人生を否定されたと感じたのです。
翌朝、元夫の“ピエール”が自伝本を確認しに訪れますが、ピエールは自伝本の中では死んだことになっていました。
その夜、皆で食卓を囲む中、リュミールとファビエンヌは些細なことで口論になります。
口論は発展し、リュミールはサラが死んだのはファビエンヌのせいだと言いだします。
サラがせっかく勝ち取った役をファビエンヌが横取りしてしまったことが原因だと言うのです。
ファビエンヌはたとえそれが事実だとしてもサラの弱さに原因があると相手にしませんでした。
次の日、リュックがいなくなってしまったため付き人としてファミールがファビエンヌの撮影現場に付き添います。
ファミールが撮影現場を訪れるのは記憶もおぼろげな幼少時代以来でした。
『母の記憶に』は、地球では治すことの出来ない病気を患った母が別の惑星で治療を受けるというSF映画。
母は7年ごとに地球に帰還し娘に会にきますが、別の惑星では年をとることがなく、一方で娘は母をの年を追い越しどんどん年老いていきます。
母役を懸命にかつ的確に演じるマノンに対し、年老いた娘役として母に接するファビエンヌはその役どころをつかめずにいました。
さすがのファビエンヌもリュックの不在は心身ともにこたえ、リュックに謝るための脚本を書いてほしいと頼みます。
あきれるリュックでしたが、母の要望に応えます。
翌日、ファビエンヌは映画の中で最も重要なシーンに臨みます。
母の年齢をとうに追いこし、後は死を待つばかりの娘が母と向き合うシーンです。
ファビエンヌは必死に演じようと試みますが、納得のいく演技ができませんが、何度もテイクを重ね手ごたえのある演技にたどり着きました。
ファビエンヌは役者としてマノンを認め、自宅に呼びサラが着ていたワンピースをプレゼントします。
リュックにも謝ることができ、呼び戻すことに成功しました。
その夜、リュミールとファビエンヌは互いの想いを話しあいます。
リュミールは小学校時代に学芸会をファビエンヌが観に来てくれなかったことを引合いにだし、仕事を優先していた母を非難します。
しかしファビエンヌはこっそりその姿を観に来ていたのです。
自身の仕事柄と性格上、何かを言われるのはイヤだろうと考え、観に行ってなかったことにしていたのです。
女優として役柄を選ぶ上でも、リュミールが喜んでくれそうな役を選んでいたと告白します。
そんな母の想いを初めて知らされ、2人は抱き合います。
しかし、ファビエンヌは今なら『母の記憶に』のシーンをうまく演じることができるからもう1回撮らせてもらえるようたんでほしいと言いだします。
せっかくの想いがシラケてしまった仕返しにリュミールはシャルロットに「おばあちゃんが演じる姿がかっこよかったから私も将来は女優になる」と嘘をつくように言います。
しかしシャルロットは「真実はどこにあるの?」と疑問を投げかけるのでした。
『真実』大事なポイント
素直になるということは弱さを見せること
ファビエンヌは仕事をする上での強さと家族(親)としての強さが反比例していると考えています。
ファビエンヌは、私生活でも女優としての自分を徹底的につらぬいています。
それは「真実」とまで名の付けられた自伝本に嘘を書いてしまうほどの徹底ぶりです。
募金やチャリティでメディアに取り上げられる俳優を映画に出るための売名行為だと批判し、自分はそんなことしなくても映画に出る実力があると信じています。
一方でリュミールの夫でTV俳優のハンクはその対比の存在と言えます。
ハンクは娘の面倒をよく見、リュミールにとってもよき夫です。
禁酒をしているようですがその理由を「よい役をもらうための願掛け」と説明していますが、酒癖の悪さを自覚していて家族に迷惑をかけないようにしているということがうかがえます。
皆がそろい食卓を囲むシーンで、ファビエンヌはハンクの出演するようなTVドラマを「モノマネ」だと批判します。
観てもいないものをなぜここまで批判出来るのでしょうか?
それはファビエンヌがハンクの禁酒の要因を見抜き、それが自分をつらぬくことができない「弱さ」だととらえたからです。
そんな弱さを持っている俳優が出演するTVドラマなぞ、モノマネしかできない連中の代物だろうと批判したのです。
自分のように私生活をかえりみず仕事に徹しないと大成はしないということを知っているからゆえのセリフです。
なぜファビエンヌは役を演じることができなかったのか?
『母の記憶に』で年老いた娘(ファビエンヌ)が母(マノン)と向き合うシーンをファビエンヌはうまく演じることができません。
大女優の名をほしいままにしてきたファビエンヌがなぜ演じられなかったのでしょうか?
若くして母をなくしているから
ファビエンヌは23歳のときに母をなくしており、老いた母の姿を見たことがありません。
それは同時に母が老いた時の娘の気持ちがわからないということにもつながります。
『母の記憶に』では母より老いてしまった娘というむずかしい役ですが、どちらの気持ちも感じたことのないファビエンヌには演じられなかったのかもしれません。
これまで真剣に人と向き合ったことがなかったから
これまでのファビエンヌは素直になるということを弱さだと考えていて、家族に対しても絶対に素直にはなりませんでした。
しかしリュミールに学芸会をこっそり見に行ったことを打ち明け、初めて家族に対し素直になったファビエンヌはこの気持ちをあの芝居にいかしたいとひらめきます。
ファビエンヌは素直になるということも仕事にいかすことができることに気づくことができたのでした。
インタビューのシーンでインタビュアーがファビエンヌの演じたシーンで印象に残っているものとして「敵兵と知りながら毅然として助けるシーン」をあげています。
ファビエンヌがこれまで演じた役は、いわばカッコよく見せれば正解という役が多く、面と向かって何かを語り合うシーンは少なかったのかもしれません。
『真実』まとめ
カトリーヌ・ドヌーブ演じるファビエンヌは、口うるさく小言を言いながらもどこか憎めないキャラクターです。
それは『万引き家族』における“樹木希林”さんを彷彿させます。
『万引き家族』の印象から、是枝監督の作風は暗いと思われがちですが、『真実』はさわやかなシーンが続き、カトリーヌ・ドヌーブの小言をフフフと笑いながら楽しめる作品でした。