『ぼくのエリ 200歳の少女』の原作者“ヨン・アイビデ・リンドクビスト”が、自身の小説を元に共同脚本を手がけた北欧ミステリー。
第71回カンヌ国際映画祭ある視点部門ではグランプリを受賞。
醜い容姿のため孤独を感じる“ティーナ”は、ある日自分とどこか似た雰囲気を持つ奇妙な旅行者“ヴォーレ”と出会う。
次第にヴォーレに惹かれいくティーナだったが、ヴォーレはティーナの重大な秘密を握っていた――。
『ボーダー 二つの世界』作品概要
公開日(日本):2019年10月11日
監督:アリ・アッバシ
キャスト:
ティーナ(エヴァ・メランデル)
ヴォーレ(エーロ・ミロノフ)
ローランド(ヨルゲン・トーション)
アグネータ(アン・ぺトレーン)
ティーナの父(ステーン・ユンググレーン)
『ボーダー 二つの世界』あらすじ
スウェーデンの港の税関で働く“ティーナ”は、生まれつきの醜い容姿のため孤独な人生を送っていました。
ティーナは到着ゲートに立ち、歩いてくる乗客の中から一人の男性を呼び止めます。
ティーナは男性の持つバックの中を見ずに3~4リットルの酒が入っていると言い当てました。
男性は自分で購入した酒だと主張しますが、持ち込める量をオーバーしているため職員たちは問答無用で酒を没収します。
仕事から帰宅すると、夫の“ローランド”の飼い犬たちが一斉にティーナに向かって吠え立てます。
ティーナが森の中に一人散歩に出かけると、野生のキツネと出会いティーナは夢中になって追いかけます。
翌日、身なりのきちんとした男から何かを嗅ぎ取ったティーナは、バックの中を見せるよう男を呼び止めます。
バッグの中から怪しいものは出てきませんが、スマートフォンのカバーの中からSDカードが出てきます。
突如、男はそれを奪い取り飲み込もうとしますが、同僚が取り押さえ警察に身柄を渡すことになりました。
ゲートに戻ったティーナは、またしても「臭い」がする男を呼び止めます。
バックを調べると金属製の怪しげな箱が出てきますが、男は昆虫の孵化機だと説明します。
結局何も見つからないままティーナは男を開放しますが、何か隠していることは間違いないようです。
翌日ティーナは、老人ホームで介護を受ける父を訪ねます。
父はティーナがローランドに利用されているのではないかと心配します。
ローランドはショーに出すための犬を3匹飼い、飼育場も設立しましたが、もともと二人が住む土地はティーナのものなのです。
捜査官“アグネータ”に呼び出されたティーナは、なんの変哲もないSDカードがなぜ違法なものか分かったのか尋ねられます。
ティーナは羞恥心や罪悪感を抱える人を嗅ぎ取ることができるのだと説明します。
SDカードには児童ポルノの映像がおさめられていました。
しかし男から入手元を割ることができず、ティーナは能力を活かし操作に協力するように要請を受けます。
昆虫孵化機の男がまたゲートにやってきました。
やはりティーナは「臭い」を感じ取りますが、呼び止められる前に男はカバンを差し出します。
またしてもカバンから違法なものは出てこなかったため、念入りな身体検査をすることになりました。
同僚が身体検査を終え戻ってくると「あれは男ではなく女だったと」ティーナに告げます。
男にはペニスがなく、身体的には女だったのです。
尾てい骨のあたりに傷があることも報告を受けたティーナは、自分にも同じ傷があることにハッとします。
二度に渡り間違った疑惑をかけてしまったため、ティーナは男に謝罪をします。
男は“ヴォーレ”と名乗り、検査のことは気にしてないと言い去っていきました。
仕事から帰る途中、隣人の男が道路に飛び出してきます。
妻が産気づいたため病院まで送ってほしいというのです。
ティーナは無事に夫婦を病院まで送り届けますが、すぐさま帰路につきます。
翌日ティーナは、簡易宿泊所の近くでヴォーレに出会います。
ヴォーレは木から虫の幼虫を採取していて、一匹を自らの口の中に入れました。
「気持ち悪い」というティーナにヴォーレは「そんなこと誰が決めた?」と問いかけます。
さらにヴォーレは「本当は君も試したいはずだ」と言い、ティーナの口に幼虫を運びます。
ティーナは自宅のゲストハウスに宿泊するようヴォーレを招きます。
自宅に到着すると案の定犬たちが吠え立てますが、ヴォーレが唸り声をあげると犬たちは怯えおとなしくなりました。
その様子を見ていたローランドもヴォーレを気味悪がります。
ティーナが幼いころ雷に打たれたときにできた傷をヴォーレが見つけると、自分も雷に打たれたことがあると言い、傷を見せてくれます。
翌日、ティーナは捜査官とともに児童ポルノの拠点を探すため捜査に出かけます。
ティーナは自転車に乗る男から「臭い」を嗅ぎ取り、後を付けます。
男の入ったアパートの一室の郵便受けを覗こうとすると、中から男女が出てきて怒られてしまいます。
謝罪しその場を立ち去るティーナでしたが、アパートからは赤ん坊の泣き声が聞こえました。
しかし、そのアパートでは出生届は出されていないため、犯罪の拠点となっていることは間違いなさそうです。
ティーナはヴォーレとともに自宅付近の森でキノコ採りに出かけます。
森の中のお気に入りのスポットにヴォーレを案内すると、ティーナは昔ここで妖精が踊っていたような気がするとヴォーレに話します。
ヴォーレはそんなティーナをバカにすることなく、もしかしたら本当にそうかもしれないと答えます。
ティーナは染色体に異常があるからセックスが出来ないということをヴォーレに告白します。
ヴォーレはそんなティーナに欠陥などではないから気にしないように話します。
その夜、ヴォーレは一人森に入ると叫び声を上げ、何かを産み落とすのでした。
捜査をしたアパートに再び捜査に訪れたティーナと捜査員は、男女の留守の隙に部屋に侵入し、ビデオカメラを見つけます。
ビデオカメラにはまぎれもない証拠が収められていました。
ある日、ティーナの家の付近に突然の雨と落雷が訪れます。
雷が苦手なティーナが家じゅうのコンセントを抜き身を潜めていると、ヴォーレも家に入ってき、二人は抱き合って身を潜めます。
雨が上がり森に入った二人は激しく求めあいます。
セックスが出来ないティーナが申し訳なさそうにしていると、ヴォーレは「オレを信じろ」と言います。
ティーナが裸になると、なんと股間からペニスが生えてきたのです。
困惑するティーナにヴォーレは自分たちは「トロール」だと説明します。
トロールは感情を嗅ぎ取ることができるが、雷を呼び寄せてしまいます。
尻尾が生えて生まれてきますが、多くが人間に切り取られたと説明し、生き残った仲間を探すために旅をしているのだと言います。
そしてヴォーレは人間に復讐をすると言います。
ヴォーレの両親は人間の実験体となり苦しみながら死んでいきました。
また地球の資源を食いつぶすだけの人間の存在を憎んでいるのです。
ティーナは自分の出生について聞くため老人ホームの父親の元を訪れますが、父親はかたくなに口を開こうとしませんでした。
ヴォーレが暮らすゲストハウスの冷蔵庫はガムテープで巻かれています。
かつてティーナは中身を聞きましたが、ヴォーレは答えてくれませんでした。
しかしティーナはヴォーレが不在の間に冷蔵庫を開けてしまいます。
冷蔵庫には赤ん坊が入っていました。
ティーナは大変なものを見てしまったと驚き、それを冷蔵庫にそっと戻しました。
乳児の虐待で逮捕された男が輸送中、一頭のシカがパトカーの前を横切ります。
森の中に隠れていたヴォーレはパトカーが止まった隙に男を引きずりだし、殴り殺して逃げてしまいました。
ティーナは森に隠れていたヴォーレを見つけ、なぜ殺したのか問いかけると、ヴォーレは男の口を封じるために殺したと言います。
ヴォーレは定期的に無精子の赤ん坊を産み落とします。
それは粘土のように形を自由に変えられ、学ぶこともなく、痛みを感じることもなく、すぐに死んでいきます。
ティーナが冷蔵庫で見つけたものがそれでした。
ヴォーレは人間への復讐のため無精子の赤ん坊と人間の赤ん坊を取り替え子(チェンジリング)し、乳児愛好のある人間へ売り払っていたのです。
ティーナは激怒し一触触発となりますが、ヴォーレの元を後にします。
ティーナが自宅に戻ると隣人の家からパトカーのサイレンが鳴り響きます。
ティーナが様子を見に行くと隣人は呆然としており、赤ん坊は冷蔵庫に入っていた赤ん坊にすり替えられていました。
ゲストハウスにはヴォーレの字で「フェリーで待つ」と書き残されていました。
フェリーに向かうとヴォーレは「二人で子孫を残こし生きていこう」とティーナを誘いますが、ティーナは拒否し、警察にヴォーレを引き渡します。
しかし、ヴォーレは船から海へ飛び込み逃げてしまいました。
後日、ティーナの父がティーナの自宅を訪れます。
ティーナの両親は精神病院に収容されていて、父はその警備員として勤めていました。
娘がほしかった父はティーナの両親が亡くなったあと養子として引き取ったと言います。
両親はティーナのことを「レーヴァ」と呼んでいて、両親の墓は精神病院の裏側にあると教えてくれました。
ティーナは墓まで足を運び両親に想いを馳せます。
自宅に戻るとドアの前には大きな包みが置いてあります。
開けると中には尻尾が生えた赤ん坊が入っていました。
泣き出す赤ん坊にティーナは虫を食べやすいように口に運んでやります。
すると赤ん坊は笑顔を見せ、ティーナの顔もほころぶのでした。
『ボーダー 二つの世界』大事なポイント
原作小説との違い
醜い容姿で悩むティーナを演じるのはスウェーデンでは同世代で最も才能があると評価される“エヴァ・メランデル”。
映像では表現することができない原作小説での文学的表現を演技で見事に表現しているところは本作の見どころのひとつです。
隣人の赤ん坊に嫉妬するティーナ
いけないとはわかっていつつも、赤ん坊が不慮の事故に合ってしまうことを想像したりと、原作では隣人の赤ん坊に対して明確に嫉妬する表現があります。
映画ではそういった明確な表現はないながらも、ティーナの表情から察することができます。
人間界での地位を次第につかんでいくティーナ
映画では児童ポルノ映像が収められたSDカードの発見を機に、次第に人間界での居場所を確立していくティーナですが、原作では物語がスタートした時点で優秀であることが書かれています。
かつては大きな麻薬の出入りを防いだこともあり、大きな組織で働くことも選べたようですが、命の危険がある仕事であるということと、なによりそういったことに興味が持てないため、小さな港での仕事に落ち着いているようです。
児童ポルノ事件は描かれていない
原作小説と映画での一番の違いは、物語に深みを増している児童ポルノの犯人を追う物語が原作では描かれていないということです。
原作小説は100ページほどの短編のため、物語を追加する必要があったのでしょう。
ヴォーレが赤ん坊をすり替えているということは意外にあっさりティーナに告白されるのです。
伝承に配慮されたトロールの表現
・大きな鼻や耳を持ち、臭気に敏感
・尻尾が生えている
・紫外線に弱く長生きできない
・トロールの子供と人間の子供を入れ替える
・洞窟や橋の下など現世と異世界の境界に住んでいる
北欧でも地域によっていろいろな伝承がされているようですが、大まかに上に書いたことが主なトロールの特徴です。
この映画ではティーナやヴォーレを通して非常に正確にトロールの特徴を知ることができます。
ちなみにティーナが税関(国境)で働いているのは、境界に住むというトロールの特徴に配慮しているからかもしれません。
なぜヴォーレから「臭い」がするのか?
ティーナはゲートを通ろうとするヴォーレから「臭い」を感じ取り身体検査を行います。
しかし、ヴォーレの持ち物から違法なものは出てきません。
ではなぜヴォーレからは「臭い」がするのでしょうか?
それはヴォーレが人間の赤ん坊を売ることに罪悪感を持っているからです。
人間に復讐するため赤ん坊をさらい、自身の体から出てきた命を持たない赤ん坊とすり替えることは、ヴィーレにとっても多少の罪悪感があるのかもしれません。
『ボーダー 二つの世界』まとめ
日本ではあまりなじみがないトロールを題材にしているということと、強烈な描写からR18に指定されているため、上映館こそ少ないですが、すばらしい映画の一つです。
男と女の境界線、善と悪の境界線、美しいことと醜いことの境界線……人間が決めた「境界線」に疑問が投げかけられ、これまで見てきたものの価値観を変えてくれる作品でした。