『エクス・マキナ』が第88回アカデミー賞®視覚効果賞を受賞し、脚本賞にもノミネートする快挙を果たした鬼才アレックス・ガーランドによるホラー作品。
主演はNETFLIXオリジナル映画『もう終わりにしよう。』で脚光を浴び、2021年マギー・ギレンホール監督作『ロスト・ドーター』でアカデミー賞®助演女優賞へノミネートを果たした注目女優ジェシー・バックリー。
次から次へと現れる同じ顔の男たちを演じるのは、『007』シリーズでビル・タナー役で出演したロリー・キニア。
アレックス・ガーランド監督自身が、「観た人がそれぞれ何についての話なのか解釈してほしいと語るほど」最初からラストまで難解な本作ですが、結末までのあらすじとともに考察を書いていきます。
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『MEN 同じ顔の男たち』作品概要
公開日(日本):2022年12月9日
監督:アレックス・ガーランド
キャスト:
ハーパー(ジェシー・バックリー)
ジェフリー(ロリー・キニア)
ジェームズ(パーパ・エッシードゥ)
ライリー(ゲイル・ランキン)
『MEN 同じ顔の男たち』あらすじと考察
ハーパーは夫を亡くした傷を癒すため、ロンドンの郊外の貸別荘を訪れます。
管理人のジェフリーは、典型的な田舎者のお調子者といった感じですが、憎めない人物。友人のライリーは、傷心のハーパーを気にかけ、しきりにビデオ電話をかけてきます。
ハーパーは自然を満喫するため散歩に出かけると、全裸で傷だらけで頭に葉っぱを乗せた不審者に遭遇します。不審者はハーパーの家までついてきて家の中に入ってこようとしますが、ハーパーは警察を呼び、不審者はあっけなく捕まります。
ジーラ・ナ・ギグとグリーンマン
アレックス・ガーランド監督は、本作の着想をジーラ・ナ・ギグとグリーンマンから得たと語っています。
ジーラ・ナ・ギグは女性の陰部を大げさに表現した彫刻で、本作にも教会でのシーンに登場します。
実際にも教会や城、公共の場の入り口に設置されていますが、一体何を意味しているのか分かっていません。欲望に対する忠告や女性への豊穣、敬意ともいわれていますが、石工によるただのジョークだとも言われています。
グリーンマンも同様に自然へのあこがれ、男性の強さの象徴と言われていますが、実際に何のために作られたのかは分かっていないのです。
アレックス・ガーランド監督は、本作を自身の過去作である『アナイアレイション -全滅領域-』と同様に明確な答えを示さないことで観た人に自分で答えを探してほしいと語っています。
本作では多くの考察要素が含まれていますが、ジーラ・ナ・ギグとグリーンマンという二つのモチーフは、本作には明確な答えがないということを示してるのだと思います。
ハーパーの元夫のジェームズは、ハーパーを支配しようと束縛をし、暴力を振るっていました。ハーパーが別れを切り出すと、自殺すると脅し困らせていましたが、口論になり、ジェフリーはアパートから落下し、死んでしまったのです。
ハーパーはジェームズが足を滑らせただけなのか、自分のせいで自殺させてしまったのか葛藤していました。
そのことをハーパーは、別荘の近くで見つけた教会の司祭に打ち明けます。
しかし教会の司祭は「男はそういうもので時に暴力も振るう」「謝る機会を与えたのか?」とハーパーを責め立てます。
その夜ハーパーは近くのバーに行くと、男たちが集まって、警察の男は裸の不審者を何も問題ないからと釈放してしまっているとハーパーに話します。
男たちが同じ顔なのになぜ気づかないのか?
本作に登場する男性は元夫のジェームズ以外、『007』シリーズで活躍するロリー・キニアが演じています。別荘の管理人、司祭、警察、意地悪な子供、パブで酒を飲む客ですら全てです。
しかしハーパーは、男たちの顔が同じことに気づく素振りを見せません。
アレックス・ガーランド監督は「ハーパーは男というのは全て同じだと思っている」「男というのはそれぞれ違うのだけど、ハーパーにとっては全て同じように見えている」など、観た人それぞれが解釈してほしいと語っています。
釈放された裸の男は、再びハーパーの別荘までやってきてドアの中に入ってこようとします。ハーパーは郵便受けから伸びた腕を切りつけ、裸の男の腕は真っ二つに切り裂かれてしまいます。
ジェフリーも助けに駆け付けますが、どこかへ消えてしまいます。
ハーパーは別荘内を逃げ回りますが、裸の不審者はこれまでに登場した同じ顔の男たち(司祭・子供・警察・ジェフリー)に姿を変えてハーパーに襲い掛かります。
男たちは順に自らの体から同じ顔の男を生み出し、力尽きます。
部屋のソファにはジェフリーが座っています。ハーパーがジェフリーに「何を求めていたの?」と問いただすと、ジェフリーは「愛だよ」と答えます。
手が裂かれ、足が折れた男たち
裸の不審者はハーパーによって手を裂かれ、足も真っ二つに折れてしまいます。これはジェフリーがマンションから落ちた姿と同じです。
このことから登場する男たちはジェフリーと同じく、女性に対して愛を求めている存在だということになります。
男が求める愛と実際の愛のギャップの話
アレックス・ガーランド監督は観た人それぞれが本作が何についての映画なのか解釈してほしいと語っていますが、本作は男が女に求める愛と実際の愛のギャップの話ではないでしょうか。
男たちは女を支配しいたいし、支配することが愛情表現だと勘違いしている。それがうまくいかなければ暴力も辞さない。
しかしハーパーはジェームズの暴力に屈せず、逆にジェームズが死んでしまうという結果になりました。
同じことが別荘内でも行われています。
裸の不審者がハーパーに種を吹き付けるシーンがありますが、これはハーパーを妊娠させる=支配しようとしていることを表現しているのではないでしょうか。
しかし、ハーパーには通用しませんでした。
逆に同じ顔の男たちは、本来は女性の役割である出産を経験して力尽きてしまいます。
ハーパーが変なワンピースを着ている理由は?
ハーパーは、男受けがしなさそうなかわいらしいワンピースを着用しています。もちろん好みの問題なのでいろいろな見方がありますが・・・。
細かい点ですが、これもハーパーが男からの要望を受け付けない存在だということを表現しているのだと思います。
ジェフリーから「ピアノが弾けるのか?」と聞かれたときは「弾けない」というのに、実際には弾けるのも男からの要望は受け付けませんというハーパーの意志が感じられます。