ある中学校で発生した小さな事件が予想もつかない方向へと進み、校内の秩序が崩壊していく様を、ひとりの新任教師の目を通して描いたサスペンススリラー。ドイツの新鋭監督イルケル・チャタクの長編4作目。
主演は映画『白いリボン』やテレビシリーズ『THE SWARM ザ・スウォーム』で活躍するレオニー・ベネシュ。ドイツのアカデミー賞にあたるドイツ映画賞で作品賞はじめ5部門を受賞。第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。
ラストの意味と監督のインタビューをもとにあらすじとともに考察していきます。
『ありふれた教室』作品概要
公開日(日本):2024年5月17日
監督:イルケル・チャタク
キャスト:
カーラ・ノヴァク(レオニー・ベネシュ)
オスカー(レオナルト・シュテットニッシュ)
フリーデリーケ・クーン(エーファ・レーバウ)
トーマス・リーベンヴェルダ(ミヒャエル・クラマー)
ミロス・ドゥデク(ラファエル・シュタホビアク)
ザラ・バウアレット(ヴァネッサ・ケーニヒ)
カトリン・ベーリシュ(ローレ・ゼムニック)
アンネ=カトリン・グミッヒ(ベッティーナ・ベーム博士)
『ありふれた教室』あらすじ
とある中学校に赴任してきたポーランド系ドイツ人のカーラ・ノヴァクは、正義感の強い若手の教師。
1年生の担任として、学力の差や人種的ルーツが様々な子供たちに分け隔てなく接している。
しかし、この学校では盗難事件が相次いでおり、先生や生徒たちの悩みの種となっていた。
【不寛容方式】を掲げる校長のベームは、学級委員の子供に半ば強引に「怪しい生徒」を聞き出そうとしたり、カーラの授業中に荷物の抜き打ち検査を行ったりと、カーラはこの強引なやり方に疑問を抱く。
カーラは職員室の自分の上着に財布をしまったまま授業に出ている間パソコンのカメラでこっそり撮影することにする。
カーラが職員室に戻ると案の定財布から金が抜き取られており、カメラには独特な星柄のブラウスを着た腕がカーラの上着をまさぐっている様子が撮られていた。
動画と同じ星柄のブラウスを着ているのはベテラン事務員のクーン。
カーラはクーンに「表沙汰にはしないからお金を返してほしい」と言いうと、クーンは窃盗を全面的に否定する。
しかたなくカーラは校長に告発するが、クーンはそれでも認めず、カーラのクラスで最も勉強のできる息子のオスカーを引き連れて帰ってしまう。
カーラは星柄のブラウスが映っていただけで、決定的な証拠ではないということと、裏を返せば誰かを疑い「盗撮」していたという引け目もあり、クーンに再び話し合いの場を設けたいと言うが、クーンはこれに応じず学校に来なくなってしまう。
一方でカーラの受け持つクラスでは、学力の低い子供や窃盗の容疑者として疑われた子供がいざこざを起こしだし、クラスが荒れ始めていた。
保護者会では、強引に生徒から窃盗の犯人を聞き出そうとしたことと持ち物検査のことが話題になり、親たちはカーラを責め立てる。
さらに保護者会にはクーンが突如として登場し「この女は職員室で盗撮をしていた卑怯者だ」と言い放ち、カーラを精神的に追い詰めていく。
オスカーの心境が心配になったカーラはオスカーと2人で話をしようとするも、オスカーは「お母さんの窃盗を取り消さないと後悔することになる」とカーラを脅し去っていき、次の日から生徒たちによる授業のボイコットが始まる。
生徒たちが独自に発行する学級新聞では、カーラにインタビューが行われる。学校新聞と言っても印刷所を使い販売される割としっかりしたものだ。
インタビューでは窃盗のことや職員室での盗撮有無が問われ、カーラはこれを否定するも、あったこととして新聞が発行されてしまう。
そんな中でもカーラはめげずに荒れたクラスの修復を試みるが、うまくいかず子供同士の取っ組み合いの喧嘩に発展してしまう。
喧嘩の一瞬のスキを突いたオスカーはカーラのパソコンを奪い、止めようとしたカーラを殴り逃走。パソコンを川に投げ捨ててしまう。
オスカーを守りたいカーラは殴られたことは黙っていたが、校長たちは10日間の停学と、修学旅行の不参加ということでオスカーを処分する。
しかしオスカーは停学になったにもかかわらず学校に来てしまう。
カーラは校長たちを締め出し、オスカーと2人で話し心を通わせようと試みる。
しかし校長たちは警察を呼び、オスカーは椅子ごと担がれるように警察に連れて行かれるのであった。
『ありふれた教室』考察
ラストの意味とルービックキューブ
停学になってしまったのにも関わらず登校してしまったオスカーと2人で話すことを決めたカーラだったが、ラストのカットでは映画の雰囲気がガラッと変わり、2人の警察に椅子ごと担ぎあげられる(祭りあげられる)ように連行されてしまう。
連行されているのにも関わらず、オスカーはどこか満足げな表情をしています。
まずクーンが家に引きこもってしまった時に、オスカーを心配したカーラはオスカーにルービックキューブを渡します。
「全て揃えるにはアルゴリズムを理解しないといけない」と。
最初はルービックキューブを揃えることが出来なかったオスカーですが、映画のラストでは全面揃えてカーラに差し出しています。
これはオスカーが問題を解決するアルゴリズム(手順)を理解したということを意味しています。
小説「バートルビー」受けた影響
監督のイルケル・チャタクは、本作について小説「バートルビー」からの影響があると語っています。
「バートルビー」は「白鯨」で知られるハーマン・メルヴィルによる短編小説で、法律事務所に勤めるバートルビーはありとあらゆる業務を「せずにすめばありがたいのですが」と言って拒み続ける。
あまりにも仕事をしないバートルビーに根負けした法律事務所の所長は事務所を引っ越すも、バートルビーはそこから動こうとせず警察につまみ出されてしまうという話です。
オスカーが導き出したのはバートルビーと同じように「何もせずに居座ること」だったのです。
ドイツの学生たち、ちょっと自由すぎないか?という違和感
体育の時間も私服だったり、授業中のスマホ、教師たちの会議に参加する学級委員などなど学生と言えど日本に比べてかなり自由が与えられているように感じます。
「生徒にも知る権利がある!」「生徒も当事者です!」とかなり発言権が強く、教師たちも否定しようとしません。
移民の問題も大きく、分け隔てなく接しようとしてもやはり中学生くらいの年頃になると差別的な発言をしてしまったり、大人の中にも差別的な人間はまだまだいます。
正義感の強いカーラのような教師にそういったしわ寄せが集まってしまっているというのがこの映画の一つのテーマでもあります。
警察に連行されてもオスカーが満足げな表情をしているのは、オスカーの目的は母親の罪をなかったことにすることであり、警察に連行されること=転校を余儀なくされることで母親の罪がお咎めなしになると思っているからだと考えられます。
そしてもう一つ、「正義感の強い教師」にとって守るべき生徒が警察に連れて行かれる問いのは、最大の過ちだと考えられます。
カーラにとって自分の取った行動で最終的に生徒が逮捕されるというのは敗北を意味するのです。
カーラはどうすればよかったのか?
カーラは数学の授業で0.9999……と1は同じ数字か証明せよという問題を生徒たちに出します。
どの生徒も同じではないという「主張」に対して、頭のいいオスカーは分数を使って「証明」してみます。
証明とは、ある事柄が真理もしくは事実であることを明らかにすることであり、星柄のブラウスの腕が自分のジャケットをまさぐっていたのはクーンが窃盗をしたという「主張」であり「証明」ではないのです。
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