本作で引退をほのめかす鬼才“クエンティン・タランティーノ”監督最新作の舞台は、1969年のハリウッド。
主演の“レオナルド・ディカプリオ”と“ブラッド・ピット”は意外にも本作が初の共演となり、落ちぶれた俳優とその専属スタントマンの友情を見事に演じております。
本作については、そもそも1969年のアメリカがどんな場所だったかということと、物語の鍵となる「シャロン・テート事件」について分かっていないと理解が出来ないので、あらすじとともにそれらについても書いていければと思います。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』作品概要
公開日(日本):2019年8月30日
監督:クエンティン・タランティーノ
キャスト:
レオナルド・ディカプリオ (リック・ダルトン)
ブラッド・ピット(クリフ・ブース)
マーゴット・ロビー(シャロン・テート)
マーガレット・クアリー (プッシーキャット)
ティモシー・オリファント (ジェームズ・ステイシー)
ジュリア・バターズ (トルーディ)
オースティン・バトラー (テックス)
ブルース・ダーン(ジョージ・スパーン)
マイク・モー(ブルース・リー)
ルーク・ペリー(ウェイン・モウンダー)
ダミアン・ルイス(スティーブ・マックィーン)
アル・パチーノ(マーヴィン・シュワーズ)
カート・ラッセル(ランディ)
ゾーイ・ベル(ジャネット)
マイケル・マドセン(ハケット保安官)
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』あらすじ
1969年、ハリウッド。
テレビ俳優“リック・ダルトン”は主演の番組が終了し、悪役としてゲスト出演を繰り返す日々が続き、かつての輝きを失っていました。
リックの専属スタントマンで親友でもある“クリフ・ブース”は、飲酒運転を起こし免停中のリックを送り迎えするなど、多岐にわたりリックをサポートしています。
そんなある日、プロデューサーの“マーヴィン・シュワーズ”はイタリアでも撮影が開始した西部劇への出演をリックに勧めます。
しかし、当時のイタリア西部劇は「スパゲッティ・ウエスタン」と酷評され、それに出演を勧められたリックは本格的に「落ち目」がきたと、涙にくれます。
リックとクリフが高級住宅街であるシエロ・ドライブのリックの自宅に到着すると、1ヶ月前に隣に引っ越してきた女優“シャロン・テート”とその夫で映画監督の“ロマン・ポランスキー”が帰宅してきました。
リックは有名な監督が隣人であることで、自身に出演オファーがあるかもしれないと機嫌を直し、クリフはドライブインシアターの隣に停めたトレーラーハウスに帰宅します。
翌日、撮影現場にリックを送り届けたクリフは、リックにスタントの仕事をもらえないか現場に言ってほしいと頼みます。
しかしリックは、この現場のスタントを仕切るのは“ランディ”だから難しいと断り、自宅のテレビアンテナを直すようクリフに頼みます。
撮影現場でリックは、ヒッピー風にメイクして視聴者が一見リックだとわからないようにしてしまおうと監督に提案され、どんどん自信をなくしていきます。
撮影に臨んでも、昨晩の深酒の影響で何度も台詞を飛ばしてしまい、自分自身に失望します。
撮影の休憩中、リックは8歳の子役の女の子と話します。
たわいのない会話の中、自身が読んでいる小説の話になり、小説の主人公と自分自身が重なり、リックは女の子の前で泣いてしまいます。
クリフはリックの家のテレビアンテナを直しながら、過去の現場での出来事を思い出します。
クリフには妻を殺したという噂が流れており、不起訴になっているものの心よく思っていない人間が少なからずいました。
ランディの妻“ジャネット”がその1人でしたが、とある現場でリックがランディにクリフの起用を頼み込み、起用に至ったことがありました。
しかしクリフは、その現場に居合わせた“ブルース・リー”が“カシアス・クレイ”(モハメド・アリ)など簡単に倒すことができると吹聴しているのを笑ってしまい喧嘩に発展します。
高飛車な態度でクリフを舐めきったリーをクリフはひとひねりにし、ジャネットの車に叩きつけ、車はボコボコに。
クリフはランディとジャネットに大目玉を食らいその現場をクビになっていたのでした。
一方で、ポランスキー家に1人の男が訪れます。
シャロンの元恋人で現在は友人の“ジェイ・セブリング”が対応すると、男は「ここは“テリー”の家ではないのか」と尋ねてきます。
ジェイがテリーは引っ越して今はポランスキー家が住んでいると答えると男は去って行きました。
休憩が終わったリックは、次のシーンの撮影に望みます。
先ほどの失態を挽回するべく、アドリブも交え迫真の演技を披露すると、監督やスタッフは絶賛。
女の子からも「これまで見てきた中で一番の演技だった」と褒め称えられ、リックは感涙するのでした。
シャロンはウェストヴィレッジに行きたいというヒッチハイカーを送り届けたあと、夫の誕生日プレゼントのため取り寄せた小説「テス」を書店に受け取りに行きます。
映画館では自身が出演する映画が上映中で、一般客に混じり鑑賞してみると、自身が登場するシーンで観客たちは大いに喜び、シャロンは幸福感に包まれます。
アンテナを直し終えたクリフはドライブに出かけると、ヒッチハイクをしているヒッピーの“プッシーキャット”を見かけ乗せることに。
行き先を尋ねるとスパーン映画牧場に帰りたいと言います。
スパーン映画牧場は、かつて西部劇の撮影地で、クリフも仕事で訪れたことがあり、彼女を送るついでにお世話になった支配人“ジョージ・スパーン”に挨拶がしたいと考えました。
久しぶりに訪れたスパーン映画牧場は、マンソン・ファミリーというヒッピー集団の根城になっていました。
スパーンに会いたいとヒッピーたちに伝えると、「昼寝の時間だから会えない」「今は盲目だからどうせわからない」と頑なにクリフを家に入れようとしません。
ヒッピーに利用され映画牧場を住処として乗っ取られてしまったのではないかと考えたクリフは、強引に家に踏み入ります。
しかし、スパーンはクリフのことを覚えておらず話もまともに出来ません。
仕方なくクリフは帰ろうとしますが、“フロッグ”という男に車のタイヤをパンクさせられていました。
クリフはトランクからスペアタイヤを出し、交換するように指示しますが、フロッグはニヤニヤするだけで従おうとしません。
そんなフロッグをクリフはヒッピーたちの前でボコボコにし、無理やりタイヤを交換させます。
事情を聞いた“テックス”という男が馬で駆けつけますが、クリフは車を走らせた後でした。
クリフはリックを撮影現場に迎えに行きリックの自宅に戻ると、2人はリックがゲスト出演したテレビドラマを鑑賞します。
クリフはプッシーから買ったLSD入りのタバコをリックに勧めますが、リックは興味を示さず、間違って吸わないようにと注意しリックのシガレットケースにしまいました。
半年後。
リックはマーヴィンから紹介された映画など複数のイタリア映画に出演し、クリフと現地で結婚した妻とともにアメリカに帰国します。
イタリアである程度稼いだとはいえ、かつてほど贅沢する余裕はなく、シエロ・ドライブの家を売却し、リックとの関係も解消しなければならないと考えていました。
クリフは事情を理解し、最後の夜に2人は呑み明かします。
酔っ払ったリックとクリフがタクシーでリックの家に帰ると、クリフは半年前にシガレットケースに入れたLSD入りのタバコのことを思い出します。
タバコに火をつけ、留守番させていたピットブルのブランディとともに散歩に出かけます。
家に残ったリックが酒を作っていると、家の外から汚らしい車のエンジン音が聞こえてきます。
私道に車を止められたことに腹を立てたリックは、車の前に立ちはだかり、怒鳴り散らして退散させます。
車の中にはテックス、セルディ、ケイティらスパーン映画牧場を根城にするヒッピーの3人がいました。
3人はテリーが住んでいた家にいる人間を全員殺すようにマンソンから命令されてシエロ・ドライブまで来ていたのです。
しかしケイティは、リックが俳優であることを思い出し、リックの家にターゲットを変更します。
散歩から戻ったクリフは、LSDでラリったままブランディに餌を与えていました。
そこに3人が襲撃します。
クリフは3人が幻覚なのか本物なのか区別がつきませんが、テックスが引き金に手を触れた時、ブランディに合図を送りテックスを襲わせます。
ケイティがクリフの腰にナイフを突き刺しますが、それに激怒したクリフはケイティの頭を掴み、そこら中にたたきつけます。
思わぬ返り討ちにセルティは半狂乱になり、銃を乱射しながらガラスを突き破り、リックがくつろぐプールにダイブします。
ヘッドホンをつけていたリックは一瞬何が起こったかわかりませんでしたが、突然の闖入者の登場に倉庫にしまっていた火炎放射器を持ち出し、黒焦げに焼いてしまいました。
間も無く警察が到着し、クリフは救急車で搬入され、リックは明日見舞いに行くと約束をします。
混乱冷めやらぬリックがしばらく外で頭を冷やしていると、ポランスキー家からジェイに何があったのかと声をかけられます。
先ほどの出来事を話すと、シャロンがインターホン越しにリックに大丈夫かと尋ねます。
リックが大丈夫だと答えるとシャロンはお酒を飲まないかと家に招待され、リックは楽しい時間を過ごすのでした。
『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』大事なポイント
1969年のアメリカはどんなところだったのか
大学を卒業し髪を切り就職するというのがごくごく普通の流れだったのに対し、就職なんかしないと自由を求めたのがヒッピーでした。
ヒッピーたちのこれまでの流れに対抗しようという文化を「カウンターカルチャー」と呼び、彼らの髪が基本的に長いのは就職をしない=自由に行きているという意思の表れとなります。
60年代はベトナム戦争が激しくなりますが、ヒッピーたちは武器ではなく花を持ち、戦争反対を訴える「フラワームーブメント」が巻き起こります。
ビートルズの登場もあり、愛と自由が共通言語の良き時代が訪れることを誰もが期待していました。
しかし自由を求めるあまり、大麻やLSDといった麻薬が蔓延。
一部のヒッピーは社会から嫌われ、コミューンを設けて共同生活をするようになっていました。
マンソン・ファミリー
リーダーである“チャールズ・マンソン”は犯罪を繰り返し、人生の半分を刑務所で暮らしていました。
出所後、ミュージシャンを志していたチャールズは、ビーチ・ボーイズの“デニス・ウィルソン”と知り合い、チャールズを中心としたヒッピーたちは彼の家を根城にドラッグやセックスを謳歌します。
さらにデニスから音楽プロデューサーの“テリー・メルチャー”を紹介してもらいます。
ポランスキー家に「テリーはいないか」と男が訪れるシーンがありますが、このテリーは音楽プロデューサーのテリー・メルチャーのことです。
しかし、デニスは引っ越してしまい、マンソン・ファミリーはジョージ・スパーンに目をつけ、映画牧場を根城にすることとなります。
チャールズはテリーに音楽デビューがしたいと頼みますが、断られたことに逆恨みしていました。
復讐のためシエロ・ドライブのテリーの家に訪れたときにはすでにテリーは引っ越しておりました。
シャロン・テート事件
1969年8月9日、シエロ・ドライブの住宅街でシャロン・テートら4人の男女が殺害される悲惨な事件が起こりました。
シャロンの他に犠牲になったのは、コーヒー王の跡取り娘“アビゲイル・フォルジャー”
その恋人の“ヴォイテク・フライコウスキー”。
そしてシャロンの元恋人でヘアスタイリストの“ジェイ・セブリング”。
シャロンはこの時妊娠8ヶ月で全身をめった刺しにされており、扉にはシャロンの血で【PIG(ブタ)】と書かれていました。
間もなくマンソン率いるヒッピー集団が逮捕されることになるが、動機はとんでもないものでした。
マンソンは黒人と白人による最終戦争が起こると信じており、黒人の過激派集団による犯行に見せかけることにより、最終戦争へのプロセスを加速させようとしたのです。
マンソンはテリーに恨みこそあったもののそこにポランスキー家が住んでいるとは知らず、シャロンたちはただただそこにいただけという理由で犠牲となってしまったのです。
それまでは対して害のない存在だと思われたヒッピーたちでありましたが、この事件を皮切りにイメージは一変。
ヒッピーたちが訴えるラブ&ピースも幻想と消えてゆきました。
まとめ
60年代のハッピーな雰囲気、そしてラブ&ピースは、シャロン・テート事件を皮切りに夢へと消え去ってしまいました。
しかしタランティーノは歴史に屈しません。
「イングロリアス・バスターズ」でユダヤ人がヒトラーを倒したように、「ジャンゴ 繋がれざる者」で黒人奴隷が白人を倒したように、1960年代をハッピーに生きていた人々は、映画の中だけでも「その後もハッピーに暮らしました。」と幕を閉じるのでした。