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『ザ・ウォーク』『イヴ・サンローラン』などで知られるカナダ出身の女優”シャルロット・ルボン”監督による思春期の少年少女の忘れられないひと夏をつづった青春ドラマ。
フランスのバンドデシネ作家”バスティアン・ビベス”の「年上のひと」を原作に、16ミリフィルムならではの映像美で繊細に描き出しています。
バスティアンの母役に『胸騒ぎの恋人』の”モニア・ショクリ”。2022年・第75回カンヌ国際映画祭の監督週間に出品されています。
原作漫画との相違点や本作に影響を与えている映画、美術作品について書いていければと思います。
『ファルコン・レイク』作品概要
https://youtu.be/cl-Q075xiL8
公開日（日本）：2023年8月25日
監督：シャルロット・ルボン
キャスト：
バスティアン(ジョゼフ・アンジェル)
クロエ(サラ・モンプチ)
ヴィオレット(モニア・ショクリ)
ローマン(アルトゥール・イグアル)
ルイーズ(カリン・ゴンティエ＝ヒンドマン)
ティティ(トマ・ラペリエール)
オリヴァー(アンソニー・テリエン)
スタン(ピエール＝リュック・ラフォンテーヌ)
ポール(レビ・ドレ)
ブライアン(ジェフ・ループ)
『ファルコン・レイク』あらすじ
2年ぶりの湖畔の避暑地
もうすぐ14歳になるフランス人の“バスティアン”は、両親と年の離れた弟”ティティ”とカナダ・ケベックにある避暑地へと旅行にやってくる。
そこは母の友人”ルイーズ”が住む湖畔のコテージで、一家は２年ぶりの訪問となる。
ルイーズの娘“クロエ”は、16歳で反抗期の真っただ中。バスティアンはクロエとの久しぶりの再会とすっかり大人びた体にドギマギするも、クロエの変わらない対応に安心する。
クロエが湖に飛び込み、バスティアンも湖に入るように誘うもバスティアンは湖に入りたがらない。バスティアンは小さいときに溺れかけた経験があり、泳ぎが得意でないと告白する。
クロエが大人たちから盗んだワインを2人で飲んでいると、クロエの顔なじみの青年が声をかけてくる。1人は新顔の”オリヴァー”で、バスティアンは英語での会話についていけず、1人で帰宅するもクロエが追いかけてきてくれる。
バスティアンが飲みなれないワインで嘔吐してしまうと、クロエはバスティアンの服を脱がせ、汚れた体をシャワーで流してくれる。
縮まっていく2人の距離
ある夜、2人はパーティに参加する。
年上の若者たちで賑わう空間にバスティアンは戸惑いつつも、背伸びをしてビールを手にする。
クロエは元カレが見知らぬ女性といちゃついているところを目撃してしまう。
バスティアンはダンスが得意で、幽霊のようなマスクを被り会場を魅了するも、クロエがオリヴァーと親密そうにしている場面を目撃して先に帰宅する。しかしクロエも「あんたがいないと退屈だった」とすぐに帰宅する。
クロエは自分のベッドにオリヴァーを呼び寄せると、元カレはやってもいないのにSEXをしたと周りに言いふらす最低な男だったとバスティアンに打ち明ける。その後2人は体を寄せ合って眠りにつく。
2人だけの秘密
オリヴァーと3人で会話をしていると、クロエが飲みのものを取りに行った隙にオリヴァーは「クロエとやったのか？」とバスティアンをけしかける。バスティアンは「やった」と嘘をついてしまう。
その後、クロエとバスティアンがバスルームで並んで歯を磨いているとクロエはバスティアンを抱き寄せ射精へと導く。
その後も水上スキー、サイクリングなど2人は楽しい時間を過ごすが、時間はあっという間に過ぎていき、バスティアンの帰りの日が迫ってくる。
バスティアンの嘘がばれてしまう
食事中、ケータイを見たクロエはバスティアンに「嘘つき」とだけ言い残し、どこかへ行ってしまう。オリヴァーについた嘘が周りに知れ渡ってしまったのだ。
バスティアンはクロエを追いかけると、若者たちが焚き火を囲んで大麻を吸っている。若者たちはパーティ会場をダンスで沸かせたバスティアンを輪の中に入れてくれるが、クロエはバスティアンのほうを見向きもしない。
バスティアンは勧められるがまま大麻を吸ってみるも、クロエはオリヴァーとどこかへ行ってしまう。
若者たちは湖の向こうにあるオリヴァーの家へワインを取りに行こうと泳いで行ってしまう。若者たちに誘わるるままバスティアンも湖を泳いでいく――
――悲しそうに抱き合うバスティアンの家族とルイーズ。発車した車の中にバスティアンの姿はなく車は湖へと向かう。湖には死者を供養するための花や食べ物が置かれ、バスティアンは後ろから家族の姿を見るも家族はバスティアンに気づく様子はない。
バスティアンは湖の向こうにいるクロエのもとへと走っていき、クロエの名前を呼ぶ。クロエはしばらく水面を見つめているが、何かを感じ取りバスティアンのほうを振り向くのだった。
『ファルコン・レイク』考察
原作は漫画『年上のひと』
映画『ファルコン・レイク』はフランスの漫画『年上のひと』が原作となっています。
物語の流れはほぼ一緒ですが、クロエの名前は“エレーヌ”。バスティアンの名前は“アントワーヌ”です。
映画の主人公のバスティアンというのは、漫画の作者である”バスティアン・ヴィヴェス”から取っているようです。
また映画ではラストで溺れて死んでしまうのはバスティアンですが、原作の漫画ではオリヴァーのような若者が数名亡くなってしまいます。
印象派の巨匠”クロード・モネ”
映画でバスティアンとクロエたちがパズルを組み立てているシーンがありますが、漫画にも同じようなシーンが登場します。
しかし漫画では”ピーテル・ブリューゲル”が描いた絵画「農民の婚宴」なのに対し、映画では”クロード・モネ”の絵画を組み立てています。
何の絵なのか？という質問に対しクロエが「クロード・モネッ”ト”(Claude Mone”t”)」と答えているところが印象的なシーンです。
モネと言えば印象派を代表するフランスの画家で、バスティアンとクロエが登場するシーンでは森や湖がぼかされ、モネの絵画の中に飛び込んだように見えます。
『陽のあたる場所』へのオマージュ
『ファルコン・レイク』では、枯れた1本の木のカットが多く出てきます。
1951年に公開された”ジョージ・スティーヴンス”監督による『陽のあたる場所』でも同じようなカットがあり、本作は大きな影響を受けています。
『陽のあたる場所』は、貧しい家で育った”ジョージ”が社交界の花である”アンジェラ”に恋をするも、身分の違いから遠い存在に感じています。
ジョージは同じ職場の”アリス”と恋仲になりますが、ひょんなことからアンジェラとも恋仲になってしまう。アリスは妊娠しますが、アンジェラとジョージは夏に別荘で過ごす仲にまでなっていきます。
アリスのことが邪魔になったジョージは、湖でアリスを溺死させようとしますが、アリスの一途な想いを知ったジョージは殺害を諦めます。しかし結局アリスは事故で溺死してしまうのです。
これを『ファルコン・レイク』に置き換えると、ジョージ＝クロエ、アリス＝バスティアンだと考えることが出来ます。
元カレにフラれてしまったクロエは、間もなく14歳になろうとする純粋なバスティアンの想いをもてあそび鬱憤を晴らす。しかし純粋なバスティアンはクロエに恋をしてしまう。
クロエは水が苦手なバスティアンが大麻を吸った状態で湖で泳いだら溺れてしまうと考えることは容易ではないだろうか？ラストシーンでクロエがあまり悲しそうな顔をしていないのはなぜだろうか？
ちなみに『陽のあたる場所』では殺したか殺していないかではなく、まず殺意があったことが罪とされジョージは死刑を言い渡される。
ところどころに散りばめられる【死の匂い】
バスティアンが幽霊の恰好をさせられたり、鹿の死骸と遭遇したりと【死のにおい】が散りばめられている。
湖の底が一切映らず不気味に感じるのも、バスティアンの映るシーンでハエの羽音がするのもその一環ではないだろうか。
シャルロット・ルボン監督は本作の主題の一つとして「デジャブ」というワードを挙げていますが、クロエはありもしない湖の事故を周りの人間に話しています。
ところどころに散りばめられた【死のにおい】と【クロエの嘘】はこれから起こる事故のことを予感していたのかもしれません。
『ファルコン・レイク』観る方法
『ファルコン・レイク』を視聴する方法は「U-NEXT」「Prime Video」でのレンタルのみです。※視聴方法は時期によって異なります、詳しくは各配信サイトをご確認ください。
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