第80回ゴールデングローブ賞では6部門にノミネートされ、主演女優賞(コメデイ・ミュージカル部門)と助演男優賞の2部門を受賞。
そして第95回アカデミー賞では見事作品賞に輝いたほか、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、助演女優賞、脚本賞、編集賞と2023年度の最多となる7部門を受賞。
授賞式でのミシェル・ヨーとキー・ホイ・クァンのスピーチも感動を呼び話題になりました。
SF×カンフー×コメディという評価されにくいジャンルながら、なぜ高い評価を得ることができたのか、あらすじとともに書いていければと思います。
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』作品概要
https://youtu.be/gqdZLWb8KEs
公開日(日本):2023年3月3日
監督:ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート
キャスト:
エヴリン・ワン(ミシェル・ヨー)
ジョイ・ワン/ジョブ・トゥパキ(ステファニー・スー)
ウェイモンド・ワン(キー・ホイ・クァン)
ビッグ・ノーズ(ジェニー・スレイト)
チャド(ハリー・シャム・Jr.)
ゴンゴン(ジェームズ・ホン)
ディアドラ・ボーベアドラ(ジェイミー・リー・カーティス)
ベッキー・スリガ―(タリ―・メデル)
『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』あらすじ
全てがうまくいっていない次元
中国系アメリカ人のエヴリンは、コインランドリーを経営するも、あまり幸せとは言えない生活を送っています。
中国から来た父の”ゴンゴン”の世話に加え、旧正月のパーティーの準備にも追われるなか、国税庁に税の申請をしに行かなければいけません。
娘のジョイは同性愛者で反抗期のまっただなか。ジョイの恋人のベッキーを保守的なゴンゴンにどう紹介するか迷った挙句、エヴリンは「良い友達同士」と紹介しジョイを怒らせてしまいます。
国税庁では英語の堪能なジョイが頼みの綱でしたが、怒らせてしまったのでエヴリンと夫のウェイモンド、ゴンゴンの3人で向かいます。
国税庁のエレベーターの中で突如ウェイモンドの人格が変わり「強大な悪に立ち向かうことができるのは君だけだから指示に従うように」と指示書をエヴリンに渡し、何事もなかったかのように元の人格に戻ります。
税の審査では、監査官のディアドラに「コインランドリーの経営に無関係な経費は控除できない」とこっぴどく絞られ、6時までに再度申請しなければ詐欺罪で訴えられてしまうことになります。
変であれば変であるほど強くなる「バースジャンプ」
ウェイモンドの指示書に従うと、エヴリンは用務室に意識を飛ばせるようになります。
用務室ではウェイモンドがいますが、エヴリンの夫ではなく別次元から来た”アルファ・ウェイモンド”だと名乗り「宇宙を混沌に導く“ジョブ・トゥパキ”と戦わなければならないと」言います。
人生の選択ごとに宇宙の次元は分岐し、アルファ次元では別の次元の自分の能力を引き出すことに成功しています。“変な行動”が別次元へのジャンプ台となり、その行動が変であればあるほど遠くの次元へ“バースジャンプ”できるのです。
ジョブ・トゥパキはなぜかこの次元のエヴリンを探しいて、エヴリンのもとに別次元のディアドラや警備員など、次々と刺客が襲い掛かります。
エヴリンはウェイモンドと結婚せず、カンフーの修行をして映画スターになった次元の能力を手に入れ、刺客を倒していきます。
しかし、ジョブ・トゥパキはエヴリンとウェイモンドの前に現れます。ジョブ・トゥパキは別次元のジョイでした。
ジョブ・トゥパキはバースジャンプの実験をしすぎた結果、あらゆる次元を同時に体験できるようになり無限の力を手に入れますが、精神が砕け散り、倫理観や信じる力を失っているのです。
ジョブ・トゥパキはエヴリンを取り囲む警備員を圧倒的かつ荒唐無稽な力で倒していき、エヴリンも倒そうとしますが、”アルファ・ゴンゴン”が駆け付けジョブ・トゥパキを捕らえます。
ジョイは元の人格に戻りますが、アルファ・ゴンゴンはジョブ・トゥパキが行き来できる次元が少しでも少なくなるようにとジョイを殺すようにエヴリンに命令します。
もちろんエヴリンはこれを拒否し、さらにジョブ・トゥパキと同じ感覚を得るため無意味にバースジャンプを繰り返します。これを脅威に感じたアルファ・ゴンゴンは、エヴリンに大量の刺客をけしかけます。
エブリンは歌手・看板持ち・料理人・カンフーの能力を駆使して刺客たちを倒します。バースジャンプを繰り返した結果、ジョブ・トゥパキと同じように次元を行き来できるようになりますが、精神が壊れ倒れてしまいます。
ジョブ・トゥパキの目的とは
別の次元でジョブ・トゥパキは、エブリンに自分の目的を教えます。それはブラックホールをつくり自分自身をなかったことにするためでした。
目を覚ましたエブリンは全ての次元を体験します。地球上に人間が登場しなかった次元も体験しました。ほぼすべての次元がこのような”何もない次元”です。
税の再申告をせずに警察とともにディアドラがやってくる次元では、ウェイモンドがうまく取り繕い、さらに1週間申告の猶予をもらうことに成功しています。それは戦うことができないウェイモンドが唯一できる「優しくする」ということが成し遂げたものでした。
優しくするということ
アルファ・ゴンゴンがエヴリンに刺客を向けた次元では、ブラックホールが出現し、ジョブ・トゥパキはブラックホールに向かって歩き出します。
エヴリンは刺客とは戦わず「優しくすること」で刺客たちを次々と手なずけていきます。
アルファ・ゴンゴンもエヴリンを倒しに来ますが、エヴリンは恐れずベッキーをジョイのガールフレンドだと紹介します。意外にもゴンゴンはそれを受け入れます。
エブリンはしっかりと母親であり続けることをジョイに伝え、ジョイがブラックホールに入ることを阻止します。
エヴリンは次元を自由に行き来できる能力を手に入れたので、輝かしい実績を手に入れた次元でも暮らすことができます。
しかし、エヴリンはジョイとウェイモンドがいるこの次元での時間を大切にするとジョイに伝えるのでした。
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『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』考察
なぜここまで高い評価を得たのか?
コメディ×カンフー×SFというあまり評価されづらいジャンルにもかかわらず、アカデミー賞作品賞に輝くなど高い評価を獲得している『エブエブ』。
何も考えずに観ても楽しめるおバカ映画としても面白い作品ですが、つまらなかったという感想も多くみられます。
内容を紐解いていくととてもメッセージ性が深い作品で、時代背景にもマッチしていて高い評価を得たことも納得ができる作品となっています。
親としての過ち
2023年の賞レース獲得作品は「親としての過ち」を描いた作品が高く評価されました。スピルバーグ監督の自伝的作品『フェイブルマンズ』やブレンダン・フレイザーが見事復活を果たした『ザ・ホエール』がそれにあたります。
個性を主張する時代だからこそ子供の育て方もそれぞれで、間違える親もいるし挽回できる機会があってもいいのではないかという時代背景が見て取れます。
その中でも『エブエブ』は一つ明確な答えを提示しています。
なぜ”ギョロメ”なのか?
ブラックホールに向かうジョイを止めるために、エヴリンはおでこにギョロメをつけて戦います。これはウェイモンドが実践している「優しくすること」を理解し新しい視点を得たということを意味しています。
さらにラストでエヴリンはジョイに「太っている」ということをしっかり注意します。同性愛はもちろん構わないけど、不健康であるのは親としてしっかり管理させてもらうという線引きが見て取れます。
作品とリンクする俳優陣
エヴリンを演じるのはアジアで最も成功した女優の一人と言われるカンフースター“ミシェル・ヨー”。エヴリンの別次元でカンフーの達人となっているのはミシェル・ヨー自身の次元です。
ミシェル・ヨーの次元では本作『エブエブ』が上映されているのも、いい演出です。
ウェイモンドを演じるのは”キー・ホイ・クァン”。『グーニーズ』などで人気子役として活躍しますが、その後パッとせず、一時は俳優業を休止していましたが、本作では見事アカデミー賞の助演男優賞を獲得しています。
成功を手にしているミシェル・ヨーが成功していない次元のキャラクターを演じること、そして一度挫折しているキー・ホイ・クァンが本作で再び脚光を浴びることはまさに「もしかしたら自分の人生はこうだったかもしれない」という本作のテーマに深みをもたらしています。
「闇落ち」したのは監督自身
監督の一人クワンはクリスチャンとして育てられながら同性愛者であることに悩み、さらにADHDであることがわかります。
シャイナートはトランプが大統領に選ばれたとき、デマや誤解のせいで人はお互いを理解しなくなり人々への希望を失ってしまったと語っています。
ジョブ・トゥパキが全てどうでもいいとブラックホールを造り、全てを飲み込んでしまおうとします。この「全てどうでもいい」という考えをニヒズム(虚無主義)と言いますが、監督自身の経験が反映されているのです。
“カート・ヴォネガット”の影響
監督のダニエルズは”カート・ヴォネガット”の大ファンで『エブエブ』にも大きな影響を与えています。
ヴォネガットの書く物語の多くは「人間の言動は総じて意味のないことだ」というシニカルでドライな世界観が描かれています。しかしその中でも、最後は何かしら希望を見出すというのがヴォネガットの作品です。
『エブエブ』でも「全てどうでもいい」という考えのジョブ・トゥパキに支配されそうになりますが、エヴリンはウェイモンドとジョイ生きていくことが大切だという希望を見出します。
何せエヴリンとジョイは人間が存在しない次元でも一緒だったわけですから。