『ミッドサマー』『ヘレディタリー 継承』の鬼才アリ・アスター監督と『ジョーカー』『ナポレオン』の名優ホアキン・フェニックスがタッグを組んだ、オデッセイスリラー。
共演は『プロデューサーズ』のネイサン・レイン、『ブリッジ・オブ・スパイ』のエイミー・ライアン、『コロンバス』のパーカー・ポージー、『ドライビング・MISS・デイジー』のパティ・ルポーン。
『ボーはおそれている』作品概要
公開日(日本):2024年2月16日
監督:アリ・アスター
キャスト:
ボー・ワッセルマン(ホアキン・フェニックス)
ロジャー(ネイサン・レイン)
グレース(エイミー・ライアン)
セラピスト(スティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン)
ペネロペ(ヘイリー・スクワイアーズ)
ジーヴス(ドゥニ・メノーシェ)
トニ(カイリー・ロジャーズ)
少年時代のボー(アルメン・ナハペシャン)
若き日のモナ(ゾーイ・リスター=ジョーンズ)
エレイヌ(パーカー・ポージー)
モナ・ワッセルマン(パティ・ルポーン)
ネタバレなしの事前情報
・日本人に馴染みのないユダヤ教をベースにしたストーリー
・「ユダヤ教あるある」が分からないと理解できない構造
・ボーが「おそれている」のはユダヤ教の戒律を破ること
『ボーはおそれている』は非常に分かりにくいストーリー構成だ。
同じくアリ・アスター監督がメガホンを取った『へレディタリー 継承』『ミッドサマー』もわかりにくいストーリーであるものの、起承転結がしっかりしているし、ホラー映画としての見どころは満載だ。
一方で『ボーはおそれている』は母親の葬式に向かう主人公が謎のトラブルに巻き込まれまくるだけで、観る者に「なぜ?」が付きまとう。
これは日本人に馴染みのないユダヤ教の教えをベースにした物語であるのが原因だ。
ユダヤ教には「ミツバ」という戒律(ルール)が無数にあり、現代において全て守るのは困難とされています。
タイトルにあるボーが「おそれている」のは、無数にある厳しいルールを知らぬうちに破ってしまうことなのです。
例えばユダヤ人が亡くなった場合、当日中に埋葬を済ませる必要があり、ボーは一刻も早く母親の元へ駆け付けなければならないが、ボーはそれができない。
現代では戒律を厳格に守る「超正統派」は少なくなっているようですが、ボーがこの厳しい戒律を破りまくる様子というのがこの映画の楽しみ方の一つなのです。
『ボーはおそれている』あらすじ
不安症のボーは、セラピストのカウンセリングを受けいる。
明日はボーの父親の命日で、数カ月ぶりに母親のモナと会うことになっている。
翌日、家を出ようとすると鍵と荷物を何者かに盗まれてしまう。
ボーはセラピストにもらった薬を飲むも、「絶対に水と一緒に飲まなければいけない」と念を押されたにもかかわらず、水道から水が出てこない。
ボーが水を買いに行く間に施錠していないボーの部屋に次々と人が入っていき、部屋をめちゃくちゃにしてしまう。
翌日になり、モナに電話するとモナは落ちてきたシャンデリアが直撃し死んでしまったという。
ボーが入浴すると、浴室の天井に男が張り付いていて、ボーへと降りかかってくる。
部屋から飛び出し警察に訴えるも、素っ裸のボーを見た警官はボーを不審者だと思い拳銃を取り出す。
警官から逃げたボーは、車に跳ねられ意識を失ってしまう。
ボーはティーンネイジャーの女の子のベッドで目を覚ます。
医者のロジャーとグレース夫婦が車に轢かれたボーを助け、娘のトニのベッドに寝かせてたのだ。
自分が帰らないとモナを埋葬できないと焦るボーだが、ロジャーは何かと言い訳を付けてボーを送ろうとしない。
グレースがロジャーにバレないようにテレビを付けろとこっそりボーに言うと、隠しカメラで自分が映し出されていて、巻き戻しや早送りができる。
トニは亡くなった兄の部屋をペンキで塗るのを手伝えとボーに迫り、ボーが断るとペンキを飲んで死んでしまう。
グレースは怒り狂い、戦争で精神を病んでロジャー家に住んでいるジーヴスにボーを追わせ、ボーは逃げ回っているうちに木に頭を打って気絶しまう。
ボーが目を覚ますと森の中で妊婦のペネロペと出会い、ボーを自分のコミュニティに連れて行く。
そのコミュニティは森から森へ移動している演劇集団で、夜になるとボーは演劇を見る。
演劇は父と母を亡くした男性の葛藤が描かれていて、いつの間にか主人公はボーに替わっている。
演劇の中でボーには3人の子供がいるが、洪水がきっけで離ればなれになってしまう。
ボーは老人になるまで様々な経験をするが、ある時森にたどり着くと3人の男が演劇をしている。その男たちはボーの子供たちで再会を喜ぶが、ボーは子供たちに自分は童貞だということを明かす。
子供たちはではなぜ自分たちが生まれたのか疑問を抱くが、そこにジーヴスがやってきてコミュニティをめちゃくちゃにしてしまう。
ボーは逃げ出し、ヒッチハイクをして家にたどり着くがすでにモナの葬式は終わっている。
そこにモナの会社で働くエレインが葬式にやってくる。エレインはボーが子供の時に出会い、将来恋人になろうと約束した女性だ。
ボーはモナの寝室でエレインとセックスするが、エレインは石造のように固まって死んでしまう。
するとモナとボーのセラピストが現れる。
モナはボーが何かと言い訳を付けて帰ってこないのだと思い怒っていて、これまですべての出来事がモナによる仕込みだったことが判明する。
ボーは双子の兄弟がモナによって屋根裏に閉じ込められてしまう、という夢をよく見るが、それが現実に起こったことなのかずっと気にかかっていた。
モナはその屋根裏にボーを閉じ込めてしまう。
屋根裏には年老いてボロボロになった兄弟と、亡くなったと聞かされていた父(巨大な男根の形のモンスター!)がいる。
そこにまたしてもジプシーが襲撃してくるが、ジーヴスはモンスターに殺されてしまう。
ボーは屋根裏から逃げ出し置いてあったボートに乗り込む。
ボートがたどり着いた先は壁に囲まれた建物で、多くの人がボーを取り囲んでいる。
ボーを取り囲む人々の中にはモナや裁判官がいてボーを裁く裁判が始まり、小さいころから現在に至るまでのボーの過ちを暴露し始める。
ボーを擁護する弁護人もいるが、すぐに殺されてしまう。
ボーは有罪となり、ボートのエンジンが爆発してボーは水の中に沈んでしまう。
『ボーはおそれている』考察
架空の会社【M.W.】のロゴ
本編が始める前に配給会社や製作会社のロゴが登場しますが、その中に「mw」というロゴも登場します。
MVというのはボーの母親のモナが社長を務める会社の名前です。
物語のラストで、ボーの人生はモナによって支配されていたことが分かりますが、モナが支配しているのはボーの人生だけでなく、映画そのものだったということを意味しています。
ユダヤ人版「ロード・オブ・ザ・リング」
アリ・アスター監督が本作をユダヤ人版「ロード・オブ・ザ・リング」と語っている通り、本作は日本人にあまりなじみのないユダヤ人に関する物語になっています。
監督自身もユダヤ系の家系であり、同じくユダヤ系のウッディ・アレンやコーエン兄弟を自身のヒーローだと言っています。
ボーの住む街は治安が悪く、想像できるすべての不安が現実となりボーに襲い掛かります。
これは母親のモナが祖父や父親はセックスをしたため死に至ったという嘘でボーを脅していたため、ボーは不安症になってしまい、冒頭でボーに襲い掛かる不幸は全てボーの妄想だと考えられます。
モナに同じCDを何度もプレゼントしてしまうのも、脅しが原因で精神に異常をきたしてしまっているのが原因です。
ユダヤ教には様々な戒律がありすぎるため、普段の生活の中でも戒律を破ってしまうかもしれないという不安が表現されていると考えられます。
ヨブ記では家族や財産に恵まれ信仰にも熱心なヨブが、信仰に熱心なのは家族や財産に恵まれているからかもしれないと神様に考えられてしまいます。
そこで神様はヨブの家族や財産を奪っても信仰は捨てないのか?とヨブを試すという物語です。
ヨブは家畜や家族、財産を次々と奪われ災難に見舞われ続きますが、決して信仰は捨てません。
ヨブは災難に見舞われる中、友人たちに相談しますが、友人たちはどこかでヨブが戒律を破っているのだとヨブを批判します。
最終的にヨブの信仰は認められ、元より多くの財産を与えられます。
ユダヤ人はエジプトで奴隷になっていたり、ホロコーストでの大量虐殺があったりと、悲惨な歴史を辿っています。
自分たちが悲惨な目に合うのはユダヤ教の教えをどこかで破っているからではないかと、ユダヤ人たちは考えます。
しかし現代では特に戒律を守るのは不可能であり、ユダヤ人は常にボーのように恐れているのです。
父親はなぜ男根のモンスターなのか?
・ユダヤ人は母系社会。
・(この映画では)男は子供を作るための道具に過ぎない。
・エレインはユダヤ人ではないためボーの結婚相手として認められない
ユダヤ人の定義はユダヤ人の母を持つものとされており、母系の社会です。
そのためユダヤ人の母親は息子の結婚相手を厳しく選びます。
同時に父親というものは血統という意味ではどうでもよく、男は子供を作るための道具に過ぎないということから、このような形のモンスターとして描かれたと考えられます。
ボーがエレインとセックスするとエレインは死んでしまいますが、エレインはユダヤ人ではないためボーの結婚相手としては認められないのです。
また、そもそもユダヤ教では結婚前に性関係を結んではいけません。
ジーヴスはボーの本心? モンスターはボーの性欲?
ボーは周りに流されやすい気の弱いユダヤ人として描かれていますが、ロジャーの家に住む精神病の謎の男ジーヴスは、ボーの本心ではないか?という考え方ができます。
ボーがトニに気を使ってトニのベッドではなくソファで寝ていると、トニは怒り、ジーヴスに言いつけにいく。
「お前の本心はどうなんだ?」というように。
その後森の劇団コミュニティに現れたジーヴスはコミュニティをめちゃくちゃにしてしまうのですが、劇団の演目は「ヨブ記」。
ヨブ記については先にも書きましたが、ボーの本心は「どこかで戒律を破っているのでは?」とビクビクすることから解放されたいと考えているのかもしれません。
で、このジーヴス、ボーの父親とされる男根モンスターにはあっけなく殺されてしまいます。
モンスターの形からモンスターはボーの性欲の権化と考えてみましょう。
いくら本心(ジーヴス)とはいえモンスター(性欲)には太刀打ちできなかったという考え方ができます。
ボーが幼いころに屋根裏に閉じ込められた兄弟は、母親に押さえつけられたボーの性欲だったのかもしれません。
ボーはなぜ殺されてしまうのか
ヨブは家族や財産を取り戻したのに対して、ボーは最終的にボートから落とされて死んでしまいます。
これはボーがユダヤ教の戒律を破ったからだと考えられます。
ユダヤ教では母親が亡くなった場合、喪に服するため入浴してはいけませんが、電話でモナが死んだと知ったボーがまずとる行動が入浴です。
浴室の天井から男が落ちてきますが、これはボーが入浴していないかモナの社員が監視していたのだと考えられます。
ロジャー一家と食事をするときもキリスト教の祈りをささげてしまっていますし、偶像崇拝を固く禁じられたユダヤ教ですが、ボーは白いマリア様の銅像を大事そうに握りしめています。
トニの部屋はK-POPアイドルのポスターが飾られていますが、誰かを崇拝している人物の家に泊まることはユダヤ教の戒律では禁止されています。
・ボーが刺されたのは脇腹と手
→イエス・キリストが刺された場所と同じ個所。
・ボーはロジャーの家で丸二日寝てしまう。
→イエス・キリストが処刑して復活するのは二日後。
ボーの父親と思わしき人物の写真は何かを金づちで叩いている。
→イエス・キリストの養父であるヨセフは大工。
イエス・キリストはユダヤ人で在りながらユダヤ教を批判したとして処刑されてしまいますが、ボーもまたユダヤ教の教えを破ったから裁判にかけられ殺されてしまったのだと考えられます。
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