『Playground 校庭』感想(ネタバレあり) ポスタービジュアルでここまで感心できるとは。

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(C)2021 Dragons Films/ Lunanime

小学校に入学したばかりの少女・ノラの視点から、不安と恐怖に満ちた子どもたちの過酷な日常を没入感たっぷりに描いたベルギー映画。

出演は「またヴィンセントは襲われる」のカリム・ルクルー、「ハッピーエンド」のローラ・ファーリンデン。本作が長編デビューとなるベルギーの新鋭ローラ・ワンデルが監督・脚本を手がけた。2021年・第74回カンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞。


公開日(日本):2025年3月7日

監督:ローラ・ワンデル

キャスト
ノラ:マヤ・バンダービーク
アベル:ガンター・デュレ
父:カリム・ルクルー
先生:ローラ・ファーリンデン

ノラの小学校入学初日。

友達ができるか不安で、泣いてしまったノラは父親と何度もハグをする。

兄のアベルも昼休みには一緒に遊んであげるからとノラを励ます。

初めて戦場に行くのさながらの父との別れのシーンは、まさに子供にとって学校というコミュニティーは戦場と変わらないと言わんばかりの演出だ。

映画の感想で「俳優がすごかった」と言うのは好きではないのだけど、ノラ役のマヤ・ヴァンダービークがとにかくすごい。実際の年齢はもう少し大きいのか?と思えば、撮影当時7歳ということに驚愕させられる。

初めて学校に行く不安、行ってみれば意外とすんなり友達ができ、溶け込んだ時の無邪気さ、子供として言葉にできない感情・表情が全て完璧でこちらも子供時代を思い出させられる。

どういう脚本でどういう演技指導なのかとても気になるが、パンフレットを読むと、撮影しながら監督が常に演技指導をしているから、アフレコも多いとか。

映像は手持ちカメラで常にノラを映している。正面、横側、移動するときは後ろから追いながら撮影されている。

ノラ以外は人間は背景としてボカされているし、映画を観ている側も、ノラが見て聞こえる音だけを感じられるようになっていてる。

ただしノラが少しずつ学校に慣れ視野が広がると、ノラの周囲もボカされずに映るようになる。

こうすることで観客もノラと同じ目線で、これから起こることをノラと同じように感じることが出来るのだ。

昼休みになり約束通りアベルと遊ぼうとするノラだったが、アベルはこっちに来るなとノラを突き放す。

アベルは身体の大きい同級生にいじめられていて、ノラを近づけまいとして、父親にも絶対に言うなと忠告する。アベルは大人にチクったところでいじめがひどくなると思っているのだ。

いじめられている当事者は兄のアベルなのだけど、常に「ノラが何を感じているのか」それを常に考えさせられるようになっている。

なぜ物語の当事者がアベルではなくノラなのか、ということがだんだんと明かされていくカメラワークによる物語性が素晴らしい。

ノラはやはり秘密にしていることは出来ず、父親はいじめっ子に直接息子へのいじめをやめるように忠告する。

しかしこれが引き金になり、アベルへのいじめはアベルが恐れていたように酷くなってしまう。

アベルは3人の同級生から羽交い絞めにされゴミ箱へ閉じ込められてしまう。

事の重大さに気づいた学校は校長自ら当事者を集めるが「君たちなら再び仲良くできるね?」といいあいまいな感じで和解することになる。

アベルへのいじめはなくなったものの、孤立したアベルを兄に持つノラも友達から仲間外れにされてしまうことになるのだ。

そこでノラはアベルに対した「この人は兄ではない」と言ってしまう。

世界は広しと言えども子供にとって学校というコミュニティはほぼ全世界を占めていて、友達に仲間はずれにされるということはほとんど死に等しい。

大人も子供時代を生き、子供ならではの生きづらさを体験したはずなのに、忘れてしまっている。たしかに大人になると「あの時はああすれば良かったのか」と解決策が思いつくから今思えば大したことなかったかもと思えるかもしれないけど、当時にそれができたかと言われればできない。

さらにいじめの内容が想像を絶していて、仲間はずれにするとか悪口を言うというレベルでは無く「そんなことしたら死んでしまうだろ!」というレベルのものだ。

大人が想像する子供の世界というのも自分が子供の頃とはかけ離れてしまっているのかもしれない。

校庭には監視員という役割の大人がいるが、なぜかイジメに全然気づいてくれない。
子供が多くて目が回らないというのも理由としてあるのだろうけど、大人の世界と子供の世界は違うということを気付かされる。

ノラのお父さんもイジメに介入するというところまでは間違っていないのだけど、失業者ゆえ昼間に学校に来てしまうというところで、ノラのお父さんは働いていないの?とノラが仲間外れにされる要因の一つになってしまう。

平均台やプールのシーンが多いのは一歩間違えると大怪我に繋がるという意味で、子供たちの社会性とリンクしているのだと感じます。

アベルはイジメられなくなった代わりに今度は虐める側になってしまう。

イジメている側になっていればイジメられないとかどういう理由でアベルがイジメる側になってしまったのか、ということは描写されていない。

ただ、子供の世界ではそういうことがよくあったようにも思う。

ノラはアベルがイジメられていると知ったとき、子供なりに出来ることをしてきたんだと思うし、それでは解決しないどころか事態は悪化していることに気づかされる。

だから今度は大人に訴えるでもなく、アベルを突き放すでもなく抱きしめる。

ラストシーンではノラが短い時間ながら実際に体験して学習したことが活かされているのだなと感じた。

そしてなんと言ってもポスタービジュアルすごい。映画を観る前と観る後でここまで感じ方が変わるとは。

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