『セブン』『ファイト・クラブ』など数多くの名作を生み出したデビッド・フィンチャー監督が、前作「Mank マンク」に続いてNetflixオリジナル映画として手がけた作品。
を主演に迎えて描いたサスペンススリラー。
マイケル・ファスベンダー演じる殺し屋が、とあるミスによって運命が大きく転換し、世界を舞台に繰り広げられる復讐劇。
アレクシス・ノレントによる同名グラフィックノベルを原作に、『セブン』のアンドリュー・ケビン・ウォーカーが脚本を手がけています。
ほかにもティルダ・スウィントン、『Mank マンク』のアーリス・ハワード、『トップガン マーヴェリック』のチャールズ・パーネルらが出演。
2023年10月27日に一部劇場で先行公開されたのち、Netflixで11月10日から配信が開始しています。
『ザ・キラー』作品概要
公開日(日本):2023年10月27日
※2023年11月10日Netflixで配信開始
監督:デビッド・フィンチャー
キャスト:
マイケル・ファスベンダー
アーリス・ハワード
チャールズ・パーネル
ガブリエル・ポランコ
ケリー・オマリー
エミリアーノ・ペニルア
サラ・ベイカー
ソフィー・シャーロット
ティルダ・スウィントン
『ザ・キラー』あらすじ
第1章 パリ/標的
ある殺し屋が高級ホテルにターゲットが到着するのを待っている。
殺し屋は高級ホテルをよく見渡せる向かいの空き家に身を潜めていて、殺し屋としてのルーティンを淡々とこなしているが、なかなかターゲットが現れず痺れを切らしている。
5日がたちようやくターゲットが到着するが、殺し屋は誤ってターゲットが連れていた娼婦を撃ってしまう。
殺し屋は身に着けているものを捨てていきながら、現場から逃げ去る。
第2章 ドミニカ共和国/隠れ家
依頼主に失敗したことを告げると、すぐに帰ってくるように言われるが、身の危険を感じた殺し屋は、自らの家があるドミニカ共和国に飛行機で向かう。
家は何者かに荒らされていて妻の姿がなく、病院に向かうと顔中に痛々しい傷を負った妻の姿があった。
妻の兄は妻を襲撃したのは男女の2人組でタクシーで来たという。
殺し屋はタクシー会社を襲撃し、妻が襲われた日に自分の家まで来たタクシーのデータから運転手を突き止めると、その運転手を撃ち殺してしまった。
第3章 ニューオリンズ/弁護士
殺し屋はニューオリンズにあるホッジス国際弁護士事務所に向かう。
ホッジスは殺し屋の雇い主であり、ドミニカの家を襲撃させたのもホッジスに違いない。
殺し屋は清掃員を装い事務所に侵入すると、家を襲撃した人物と、そもそもの殺しの依頼主の情報を聞き出し、ホッジスと秘書のドロレスを殺してしまう。
第4章 フロリダ/ブルート
フロリダには妻を襲撃したうちの一人がいて、殺し屋は船でフロリダにたどり着く。
男の家には番犬としてピットブルがいるが、殺し屋は睡眠薬入りのエサを与えあっけなく家に侵入する。
男はかなり屈強で苦戦を強いられるも、殺し屋は男を撃ち殺す。
第5章 ニューヨーク/ザ・エキスパート
次に殺し屋は妻を襲撃した女がいるニューヨークへと向かう。
高級レストランで食事をしている女をあっけなく捕まえると、女は熊と猟師の話をする。
ある猟師が熊を撃つも熊は生きており、猟師を羽交い絞めにして殺されるか犯されるかのどちらかを選べという。
猟師は死ぬのは嫌なので犯されるほうを選ぶ。
しかし次の日も次の日も猟師は熊を撃つことに失敗し、やはり熊は同じ選択を迫る。
女は殺されまいと喋りまくるが、殺し屋はやはり女を撃ち殺す。
第6章 シカゴ/クライアント
パリでの殺しのクライアントはシカゴにいる大金持ちで、殺し屋はシカゴに向かう。
クライアントの家は厳重に警備されているが、殺し屋はアマゾンで買ったコピーの鍵で難なく家の中へと侵入する。
クライアントは殺しに失敗した殺し屋を消すように提案したのはホッジスであり、自分は悪くないと必死に説明する。
殺し屋はどんなに警備が厳重な家であれ簡単に侵入できるし、お前のことはいつでも殺せると脅しクライアントのことは殺さずに去っていきます。
終章 ドミニカ共和国
復讐を終えた殺し屋は妻とともに穏やかなドミニカの家で暮らすのでした。
『ザ・キラー』考察
マイケル・ファスベンダーがこちらを見下ろすように銃を向けているポスタービジュアルは、どこかダークな印象がありサスペンス的な胸糞悪さを期待せずにはいられないビジュアルです。
デビッド・フィンチャーが監督するというからには、『セブン』『ファイト・クラブ』のようなサスペンス性やラストでの衝撃をもとめていた人が多かったのではないのかと思いますが、本作はフィンチャー史上一番淡々とした作品となっていました。
ラストでも期待しているような展開は起こらず、いつものルーティンから外れた殺し屋が淡々と復讐をしていくという内容でした。
では、本作では何を楽しめばよかったのでしょうか?
機械的であること=完璧な殺し屋
“汝の意志することを行え”
冒頭で殺し屋が殺し屋としてのルーティンをこなしながら、殺し屋としての「意識」を心の中で呟いているシーンがあります。
殺し屋は誰の言葉だったか思い出すことは出来ませんが、これはアレイスタークロウリーによるテレーマ哲学の言葉です。
すごく簡単に説明すると、「お金が欲しい」とか「有名になりたい」という欲とは別に人は真の意思を持っていて、その意志は天職になりえるということです。
また、テッド・ウィリアムズという野球選手が3割4分4厘の打率を残したことを引き合いに自分の殺し屋としての確率は10割だと説明します。
野球において3割4分4厘という打率はすごいことなのですが、殺し屋は欲望を捨て去り、失敗したことがない完璧で機械的な殺し屋だということを自負しています。
スマホを踏み潰す違和感
殺し屋は「予測できないことはするな」といった哲学を語りながらも、ターゲットが5日現れないという連絡が入っただけでスマホを踏み潰ししまう感情的な行動を起こしてしまいます。
そもそも完璧な殺し屋を自負しながらも妻がいるということにも違和感があるし、「復讐」という行為自体が完全に感情的です。
完璧を自負しながらも、実はそんなことのない主人公のギャップや葛藤が本作の見どころのひとつとなっています。
殺し屋は凡人だった
安心を求めることは負の連鎖を起こす。
“運命”なんて気休めだ。
自分の未来は予測不能だ。
与えられた短い時間でこれを認められないなら、あんたは数少ない1人でなのではなく俺のように数ある1人なのかも。
ラストでドミニカで妻とのんびり暮らすことを選んだ殺し屋の心の中のセリフです。
これまでさんざん不完全さを観客に見せつけてきた殺し屋は、とうとう自らも完璧ではないことを認めます。
ティルダ・スウィントン演じる女殺し屋が「熊と猟師」の話をするシーンがあります。
そもそも殺し屋はわざわざティルダ・スウィントンの前に姿を現す必要はなく、暗殺的に殺すこともできたはずです。
殺し屋は機械的に殺すことではなく、”何か”を心の奥底で求めているのです。
ドミニカの自然の中、妻と二人でのんびり暮らすということが殺し屋にとっての“汝の意志することを行え”なのかもしれません。
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